会社を武器にして、自分にも、会社にも得を。

吉田:事務所では、スタッフみんなに「自分が社長だと思って」って言っているんです。私たちみたいな会社ではクリエイティブなことにすごく時間を割くから、合理的に時間を使わないといけない。みんなが何のために働いているのかを理解できれば、時間の使い方も自分で決められるようになってくると思うんですよね。

谷尻:そういう意味では、社食堂でみんなが同じものを食べることで、同じ価値観を共有できるのかもしれません。夫婦やカップルが似てくるのは同じ食事を摂る率が高いからだと思うし、同じものを食べて、同じ方向性に向かせるというのはすごくデザイン的な発想。いわば細胞のデザインですね。

吉田:無駄なルールをつくるよりも、いかに自発的に動けるようにするかのほうがいいよね。みんなでいいチームをつくって、チームだからこそできる仕事をそれぞれみんなが長くやりたいなと思う状況をつくりたいなと思うんです。そのために同じ釜の飯を食べるというか。人って単純で、おいしいものがあったら幸せだし、健康になれるし。仕事が大変で、昼夜もわからないような状況だといい思考にならないし、いいコミュニケーションも生まれない。

谷尻:ポジティブな発想があればいいアイデアが出るしね。だから、食は仕事にも生活にも重要なんだけど、忙しいとなかなか続かないんですよ。社食堂がいいのは、食堂チームがオーダーを取って回って、できたよ、食べてくださいと言うと、みんな一緒にテーブルを囲むことになる。「いいから、食べなさい」って、おかん料理の手法なんです(笑)。それを一般の人にも食べてもらうおうという、いわばそういう「企画」ですね。

吉田:フィールドを用意してあげ続けるということがいいかなと思います。たとえばこういう場所でイベントをするとなったら、自分が会いたい人が出演する企画にしたらいいじゃないですか。そういうことができる可能性があると楽しいんじゃないかな。

谷尻:僕がスタッフに言うのは、職権濫用をしろということ。会社にいるということはひとりではできないことができるということですよね。その武器をうまく使っていい仕事をして、結果、自分も得をするというストーリーが構築できたら、会社も自分も得をするじゃないですか。

吉田:みんなで楽しみながら自分たちの場所としてつくっていくという過程もすごくいいなと思っていて。スタッフみんながいろいろと業務がある中で、自分たちのためになることを楽しんでやってくれたらいいなと思っています。絶えず変わり続けるということをみんなで参加しながらやっていくことが、いいチームワークをつくることにもなっているということですよね。

仕事を「自分ごと」として働くには?

谷尻:武田鉄矢的に言うと、働くって「端(はた)」を「楽」にすることなんですよ。周りを楽にしてあげることがビジネス。だから本来は、周りの人のために自分がどうあるかということが仕事なんだと思います。そこを、プライベートと仕事が一緒になるようなことがスタッフにうまく仕掛けられたら面白いなと思っていて。仕事って「仕える」って書きますよね。その「仕」が「私」になればいいわけですよ。自分のことになるとみんな本気になるから。

吉田:どんな職業でも、どんな状態でも、それを面白いと思って、自分ごとだと思って取り組めるかどうかですよね。そのコツをつかんだら無敵じゃないかな。

谷尻:僕は、本当はみんなの名刺に代表取締役と書きたい。役職が付くとちょっと背筋が伸びるわけじゃないですか。だから、みんな代表取締役社長になっていれば、もっとすごいチームになるんじゃないかと思って。そういう肩書の効果って、たしかにあるんですよ。

吉田:私は、夜に誰も事務所にいないんだったら電気を消せばいいのにと思うんです(笑)。それは経営者だから思うのかもしれないけど、光熱費を下げれば自分たちのお給料に返ってくるというふうにも考えられますよね。みんな、なかなかそこに気付かないんです。

谷尻:正直に言うと、僕も会社員の頃はそれができていなかった。自分が社長だと思ってやれって言われても、だって社長じゃないもん、というのがリアルじゃないですか。

吉田:だからこそ、そういうことを理解して会社員として働くと、そうじゃない場合とでは全然働き方も違ってくるんじゃないかなと思って。モチベーションの問題なのかもしれないけれど。

谷尻:今回のCLASS ROOMの講義は、いわばモチベーションをコントロールするプロジェクトですよね? 参加者の皆さんをうっかりやる気にさせればいいのなら、僕らはペテン師なので大丈夫です(笑)。デザインってそういうことじゃないですか。

吉田:みんな、自分の働き方に迷いますもんね。特に20代、30代くらいは。そんな方たちの背中を押してあげられる内容になるといいなと思いますね。

“社食堂ではたらく私たちのワークスタイル

社食堂ではたらく私たちのワークスタイル

講師:谷尻誠 + 吉田愛(サポーズデザインオフィス)

オフィス「会社の食堂」と飲食店「社会の食堂」を掛け合わせたユニークなスペース『社食堂』を2017年4月にオープンしたサポーズデザインオフィスの谷尻誠さんと吉田愛さんのお二人に、社会の健康をデザインすることを軸にオープンした「社食堂」からみえる新しい働き方についてたっぷりお話をうかがいます。

日時
2017年8月30日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2017年7月5日(水)~8月21日(月)
申し込む

谷尻誠 + 吉田愛(サポーズデザインオフィス)

SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)は、谷尻誠、吉田愛率いる建築設計事務所。住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、仕事の範囲は多岐にわたる。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外合わせ多数のプロジェクトが進行中。公共施設や海運倉庫を改修した複合施設 ONOMICHI U2をオープンさせるなど地域と人の関わりをつくる仕事なども手がける。2017年4月、東京代々木上原に「社食堂」を開業。
社食堂:https://www.facebook.com/shashokudo/