2018年のCLASS ROOM第一弾は、新年特別講座として、ファッションに造詣の深い2名の対談を開催! 『Begin』『MEN'S EX』など雑誌の編集長を歴任し、現在は『装苑』の編集長を務める児島幹規さんと、雑誌や広告のスタイリングから、ショップやファッションブランドのディレクションにまで活躍の場を広げる相澤樹さんが登壇してクロストークを繰り広げます。それに先立って行われたインタビューでは、講義の内容を相談するうち、思わぬ方向へと話が転がり……。「個性」が問われる今の時代を面白く生きるための、とっておきのヒントをお届けします。

一周回って、再び「個性」がテーマの時代に。

相澤樹さん(以下、相澤):過去のCLASS ROOMの講師を見ると、そうそうたるメンバー。モデルのKIKIちゃんは山について話したんですね。私たちは一体、何をお話しすればいいんでしょうか(笑)。

児島幹規さん(以下、児島):雑誌のつくり方を聞きたい人もいれば、バイヤーとの裏話が聞きたい人、今年何が流行るかを知りたい人など。ファッションがテーマだとしても、参加する人の興味によって話す内容は違ってきますよね。

相澤:私がよくトークショーで聞かれるのは、「ふだんは何をしているんですか?」とかかな。私も児島さんが何をしているのか知りたいですね(笑)。

児島:僕ですか? たいてい仕事してますけど(笑)。テーマについては、このふたりなら「個性のつくり方」しかないと思うんですよ。『装苑』に求められるのも、ミキティ(相澤さん)の作品から感じることもそう。万人受けじゃなくて、その人が何を伝えたいのか、どう表現するかということをやっている。時代的にも、そういう側面が求められていると思うし。

相澤:でも、私がやっていることってファッションなのかな? いろんなことをやっているから「ファッション」という言葉で自分の仕事を言い表せなくて。たとえば自分のアイデンティティをどう構築していこうかみたいな話とか?

児島:ファッションって、本来はそういうものだったと思う。ファッションという言葉の意味自体がこの10年で大きく変わっちゃったけど、今は改めて、それ自体がテーマになりつつありますね。最近は若い子たちが服や言葉を通して個性を出すようになってきて。

相澤:今のトレンドの傾向としては、1980年代後半から1990年代前半の空気がありますよね。でも今流行っているものって、すでにあったものしかなくて、もう飽和状態。ゼロから生み出すことがなくなってきている気がする。

児島:昨年でいえばデザインされた袖とか、そういう流行はあるけれど、本質的な部分で大事なのはどこで自分を出すかということ。『装苑』を見た人から「こんな服、誰が着るんだ!」って言われることがあるんですけど、そもそも、雑誌が着てほしい服だけを紹介していると決めつける発想に、個性がない。想像力がある人に見てもらって、なんか面白いなと思ってもらえたらそれでいい。そこから、その人が感じたものが育っていけば。もともとファッション誌に求められていたのは「1か月コーディネート」みたいな実用例ではなくて、「何かのきっかけを得る」ものだったんだから

相澤:ここ最近は、個性を表現することを抑える傾向が強かったと思うんですよ。色をあまり使わなかったり、シンプルなファッションが主流だったから。

児島:そうそう。でも、今の10代後半、20代前半の人たちは違った流れになってきていますよね。やっぱり、上の世代のカルチャーを見て、「それじゃ、つまんないよね」ってアンチになるから(笑)。

雑誌やネットではなく、信じるのは自分自身の体験。

児島:個性ということでは、僕が学生向けの講義でいつも言うのが、「飲食店を紹介する検索サイトの点数を信じるな」ということ。あるサイトのつけた点数が2.5でも、自分がうまいと思ったら「うまい」と、他人がうまいと言っても、自分がまずいと思ったら「まずい」と言えって。

相澤:え、私もその話をよくしています! 自分で食べて決めようよって。授業の20分くらい食べ物の話をしたりして。「個性」って、ファッションだけに表れるというわけじゃないですもんね。

児島:今の若い人たちは服を頻繁に買わないけれど、ごはんは毎日食べるものだから例えやすいし、伝えやすい。服でも食べ物でも、ネットの評価に頼らず自分で良し悪しを判断したほうが絶対にいい。

相澤:私はめちゃくちゃアナログで、パソコンさえ持っていないんですよ。みんなに「大丈夫か?」って言われていますけど。

児島:「大丈夫か?」って話なら、僕も雑誌を全然読まないんです。生まれてから今まで、たぶん10冊も買っていない。出版社に入るまでに買ったのは、高校生のときに友だちが載っていた『MR.HIGH FASHION』とか、それくらい。かつて、先輩たちが「読んでないやつはおかしい」って話をしていたから村上春樹も読んでいないし、自分の世代で流行したスノーボードも、ダーツもやったことがない(笑)。天邪鬼なんですよ。でも、だから『Begin』時代に誰も知らないものを自分で探しては紹介して、結果的にそれが大きく流行ったり。

相澤:それ、ものすごい個性ですよね。逆にうちの事務所は本だらけですよ。私は本だけじゃなく洋服もすごく買うし、本当にモノを消費して生きている。収集するのが大好きな完全なオタクで、ギリギリ、スタイリストをやらせてもらうことで成立しているみたいな(笑)。

児島:ミキティは、スタイリストが天職(笑)。僕はあまり自分自身に関心がなくて。でも、その分オタクな人の話を聞いているのが好きなんです。だから、自分でも編集に向いていると思う。

相澤:しかも児島さんって、人を選ばないで話を聞きますよね。それこそ、突然電話をかけてきた学生でも。そこがすごいと思うんですよ。普通は同じ業界の人で集まりがちじゃないですか。

児島:昔から、編集者と飲むことはほとんどなくて。前社の頃、頑張った後輩を楽しそうなお店に連れていくことはありましたけど(笑)。基本的に編集者と飲んでもそんなに面白くないですもん。

相澤:児島さんは、肩書とかを全然気にしないんですよね。これは私もそうなんですけど、どこの誰なのかをまったく気にしない。むしろ海外で一人旅をすると出会う人全員と仲良くなる、みたいな。

児島:言われてみたらそうかも。あとはよく「雑誌を読まないで、どうやって情報得るんですか?」って聞かれるんですけど、雑誌をつくる人間が雑誌から情報を得てどうするんだって思うんですよ。情報って、こんな風に人と直接話しているところから偶然得たりするものだから。

個性を楽しむ

個性を楽しむ

講師:児島幹規(装苑編集長)×相澤樹(スタイリスト)

新年のはじまりとなる今月は装苑編集長の児島さんとスタイリストの相澤さんをお呼びし、「個性を楽しむ」をキーワードに、様々な個性を読み解いていきます。お二人とともに、たくさんの個性に触れる時間を過ごし、2018年の気分を高めてみませんか?

日時
2018年1月31日(水)19:00~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
50名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2017年12月26日(火)~2018年1月22日(月)
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児島幹規(装苑編集長)

1968年生まれ。学生時代に編集アシスタント・ライターを経て、1992年世界文化社入社。2004年に『Begin』編集長、2009年から『MEN’S EX』編集長を務めた後、2013年10月より文化出版局、出版事業部長兼『装苑』編集長に。毎日ファッション大賞、Tokyo新人デザイナーファッション大賞、ORIGINAL FASHION CONTEST、浜松シティコンペ他、多くのコンテストで審査員も務める。


相澤樹(スタイリスト)

2005年よりフリーのスタイリストとして活動開始。エディトリアルを始めアーティスト、広告、CMなどジャンルを問わず活躍中。衣装デザイン、エディトリアルディレクション、空間プロデュースなど多方面の活動も行なっている。2017年ラッキースター所属。 著書:REBONbon(祥伝社)KAWAII図鑑(文化出版)