5月のLUMINE CLASS ROOM LIVEでお迎えするのは、ブックディレクター/編集者の山口博之さん。ブックディレクターとは、書店以外の場所に本の売り場を作ったり、さまざまな場所にライブラリを作って選書したりする仕事です。「書店に寄ったら、手ぶらで出るなというのが自分ルール」と話す山口さん。ライブラリをつくるときに大切にしていることや、本と出会うよろこびについて聞きました。

利用履歴から見える、本との良い出会い

ブックディレクターという仕事のおもしろみを感じるのは、本との出会いをうまく作り出せたとき。対個人の場合は、自分がいいと思った本の魅力を言葉で説明できますが、僕の仕事は個人ではなく「場」に対して本棚を作っていくことです。だからこそ、利用者から「こんなふうにおもしろかったです」「発見がありました」というような感想を聞くとすごくうれしくなりますね。

たとえば、継続的に手がけているルミネ本社オフィスのライブラリでは、「こういう本がよく読まれている」とか、「この本を読んでいる人はほかにこれを読んでいる」という貸し出しの履歴を記録しています。それを見ていると、僕がおもしろいと思って選んだ本に対してのリアクションをより強く感じられる。利用者全員と話すことはできませんが、履歴からそういうことを読み解くのも楽しいですね。

今回のインタビューはオンラインで行い、写真はすべて山口さんによる撮影。
ひと月に30〜40冊の本を買うという山口さんは、自宅やオフィスで場所ごとに置く本を分けている。自宅のテーブルに置いているのは“いま読みたい本”。「持ち帰った新しい本がとりあえず積み上がる」。

場所がもつ問いを見つけ出す

売り場づくりやライブラリづくりは、依頼主へのヒアリングから始まります。どんな場所で、なぜ本を置きたいのか。どういう人が利用し、それによってどんなことが起きたらうれしいのか。それらをヒアリングしたうえで、「こういうやり方だったら、こう応えられるはず」、もしくは「その意図って、本当はこういうことだったんじゃないですか」とディスカッションを重ね、コアとなる部分を固めていきます。

そのプロセスは、ライブラリを置くことによってどういう変化が生まれるか、どういうことを生み出す場にすべきかといった“問い”を見つけることでもあります。問いに対して、どのような方法でアプローチしていけるかを考えるのが次の作業ですね。
話を聞いて、僕のほうでいったん考えて、また渡す。抽象的なものからだんだん具体的なものにして、会話してまた具体的にしていくという作業を繰り返す感じでしょうか。

僕は、答えそのものは与えられません。どう読んで、なにを導くかは利用者それぞれが考えること。その場所に生まれている問いに対して、こういう本がありますよと提案するのが僕の役割です。

玄関の本棚には、「テーブルで読み終わった本や、しばらく読まなさそうな本を入れておく」と山口さん。

本棚にグラデーションをつける

本を選ぶときの出発点になるのは、僕が読んだことのある本や、日頃読んでいる本です。ただ、ライブラリをつくるのは、ふだん本を読まない人が多く訪れる場所であることがよくあります。本を自分で選ぶことを普段しない人が多い場所だからこそ、依頼がくることがあるわけです。
そういう人たちに読んでもらうためにかなり意識するのが、利用者が1冊目に手に取る本をどう考えるかです。漫画でもいいし、ベストセラーでもいいんですが、もうすでに読んでる人も多いかもしれないような、広く知られている本をあえて忍ばせておくことで、ふだん本を読まない人たちが「あ、これは知っている」とか「これなら読んでみよう」と手に取ってくれます。

そのあと2冊目、3冊目と手に取ってもらうために、ライブラリにグラデーション的な奥行きをもたせることも大事です。
つまり、読むために必要な前提知識の量にバリエーションをつけたラインナップにするということ。段階を踏んで読んでいくことで、内容をちゃんと吸収することができたり、本を読む解像度が上がっていったりすると思うんです。
でも、こちらが想定した通りの順番で読んでほしいわけではありません。選書して並べていく理由を明確に自分が持っておくためにあるひとつの考えであって、その人なりに、自由に読んでもらうことが、ライブラリとしての正しい姿だと思います。

自宅のトイレには「短時間で読み、やめ、再開できる本」を。短編やエッセイ、勉強のための本が多いという。

みんながこれまでに読んできた本、みんなとこれから読んでみたい本

みんながこれまでに読んできた本、みんなとこれから読んでみたい本

講師:山口博之(ブックディレクター/編集者)

2020年度の講座はLUMINE CLASS ROOM LIVEとして動画のライブ配信でお届けしています。5月講座の講師は、ショップやカフェ、病院など様々な場のブックディレクションを手掛ける、ブックディレクターの山口博之さんです。いつもとはちょっと違った視点での本選びについて山口さんにお話をうかがってみます。また、ルミネ公式のインスタグラムや、ライブ配信中に山口さんへの質問コメントを募集中ですので、ぜひご参加ください。コロナウイルスで外出自粛の状況が長く続いていますが、そんな時期にみなさんはどんな本を読み、どんなことを考えていたのか教えていただけたらうれしいです。

< YouTubeでのライブ配信 >

配信日時
2020年5月27日(水)20:00~21:00
配信方法
上記日時にYouTube上でライブ配信
→公式アカウント「LUMINE Official」はこちら
YouTubeへ

山口博之(ブックディレクター/編集者)

good and son代表。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業後、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。06年から16年まで、幅允孝が代表を務める選書集団BACHに所属。17年にgood and sonを設立し、ショップやカフェ、ギャラリーなどさまざまな場のブックディレクションをはじめ、広告やブランドのクリエイティブディレクションなどを手がけ、そのほかにもさまざまな編集、執筆、企画などを行なっている。