2015.06.24
Report 1/3

私のごはんの楽しみ方

講師:平野紗季子(フードエッセイスト)

小学生時代から食日記をつけ続け、日々「食」を楽しんでいるエッセイストの平野紗季子さん。美食の探究でもなく、B級グルメの楽しみ方でもなく、毎日の食事と向き合う平野さん流のごはんの楽しみ方を教えてもらいました。

自分にとっての「おいしい」を、自分だけの基準で味わう

「(CLASS ROOMの)講師を依頼されたとき、最初に『おいしいものの見つけ方を教えてください』と言われたんですけど、それはわかんないよって思ったんです」。講義がはじまってすぐ、平野さんの口から飛び出したのはこんな言葉。続けて、その理由をスクリーンいっぱいに映し出して、一息で話してくれました。

だってさぁ、育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイしあなたはセロリが好きだったり私はセロリが嫌いだったりするでしょ?!私が美味しいと思ってもあなたにとってはマズいかもしれないよねえ?私がゴミクズだと思ったものがあなたにとっては宝物ということがあるよねえ?今日美味しかったものが明日はまずいかもしれないよねえ!昔の恋人とよく一緒に食べたカフェのチーズケーキが大好きだったけどひどい別れ方したらボソボソのスポンジにしか思えなくなっちゃったみたいなのもあるよねえ?!だから食べ物の味ってほんとひとりひとりのものだと思うし、美味しさっていうのは料理に宿っているんじゃなくて、常に私と料理のその間!空間!隙間!?今日の自分と今日の料理のその関係性の波みたいなものの上で絶え間なく変わり続けていくものだと思うのだよね!ってことは自分がしっかりしてなきゃいけないよね。料理も大事だけどこっち側も大事なんだよね。だから自分の感性というやつを駆使して料理と向き合うべきだと思うよね。料理を前にして喜びを感じるとき、そこには常にそれを食べる自分の存在がいるんです。それは今日の今の自分の舌でものを真剣に味わないと出会えないもの。消えてしまう食べ物の、取り返しのつかない食べ物を、自分の口でちゃんと食べる。そのときに感じた喜びって本当にそれこそ「あー生きてる」って感じがする。(原文ママ)

流行や話題に関係なく、一人ひとりにとっての「おいしい」があるからこそ、ごはんは楽しい。そう語る平野さんは「ごはんを愛して24年」のキャリアの持ち主。「理想のごはんの楽しみ方」は、気になる街をあてもなくさまよって、偶然出会ったお店で食事をすることだそう。

知らないお店に入るのは勇気がいるけど、一か八かで当たったときの満足度がめちゃくちゃ高い。それも、気兼ねなく横道にそれたりできるから、ひとりのほうが楽しいんです。いろいろな看板やお店の様子をのぞきながら歩いていると、たとえ一言も口をきいてなくたって、誰かとおしゃべりしたような気持ちになる。なんだか、街と会話しているような感じがするんです。

味はもちろん、シチュエーションやお店の雰囲気も楽しみのひとつ

平野さんのごはんは、外食が中心。その楽しさは「選んで、味わって、それを(記録に)残す」というふうに分類することができます。選ぶときは、嗅覚だけを頼りに探すこともあれば、信頼できるInstagramユーザーの情報を参考にしたり、時間がなければ「食べログ」も活用と、TPOに合わせてさまざまな方法を駆使。でも食べるときは、基本的にはひとりで、がこだわり。そして食べながら、その味を“キャラクター化”するのだそう。

この前、初めて明石焼を食べたんです。まず最初に「ふわふわだな〜」と思ったんですけど、シフォンケーキだってふわふわだから、それじゃあ明石焼に申し訳ないなって思って。それでこの食べ物の個性って何だろうって考えたら、「足腰の弱いたこ焼きだな」って気づいたんです(笑)。食べ物って、食べたらなくなっちゃうし、持って帰ってずっと観察するわけにもいかない。その食べ物にしかないキャラクター、というか個性を汲み取りながら食べていくと記憶に残るし、そのものの味をもっと味わえるんですよ。

たとえおいしくなくてもごはんは楽しめる、と平野さん。その理由のひとつは、そこに「物語」を感じることができるから。たとえば、古い喫茶店に入ったら、透明人間のように存在感を消して、店主と常連客の会話を観察する。サービスの悪いイタリアンレストランでは、「きっと昔別れた恋人に出会うためだけにお店を開いているからだ」と空想してみる。そう、「ごはん」の楽しみ方の幅は、とても広いもの。

高級レストランとか、B級とか、「ごはん」を線引きしたくないんです。すべての食事を平等に、与えられた食事をフラットに味わいたいといつも思います。もっと、自由に楽しもうよって。

食べることを愛せば、毎日、喜びを感じられる

選んで、味わったら、最後は形にして「残す」。小学校のときに書いた「食日記」を披露しながら、料理写真の撮り方のコツや、ショップカードがあると味を思い出すこと、食べ物をモチーフにした服や雑貨の楽しみ方などなど、「食べているときも食べていないときもごはんを愛したい」と、さまざまに語ってくれました。さて、そんな平野さんにとって「よりよい暮らし」とは?

生きてる! って感じられる瞬間が日々の中にあることかなあ。たとえばおいしいごはんを食べれたら、あーすごく幸せだった! って、その場、その瞬間で、本能的な喜びを実感として感じられる。ごはんを愛していると、その感覚を毎日必然的に味わえる。そういう、“生きてる感”があることが、豊かだなって思います。

>>交流会の様子はこちら

平野 紗季子(フードエッセイスト)

1991年福岡県出身。小さい頃から食べることが大好き。日常の食にまつわる発見と感動を綴るブログが話題となり、若干24歳にして『an.an』や『SPRING』で連載する他、2014年6月にはエッセイ『生まれた時からアルデンテ』を出版。自身を生粋のごはん狂(pure foodie)と称する。

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