2015.09.24
Report 1/3

ぼくの映画の楽しみ方

講師:有坂塁(キノ・イグルー代表)

カフェやマルシェ、海辺の美術館や無人島などなど、さまざまな空間で世界各国の映画を上映している移動映画館「キノ・イグルー」。「映画との新しい出会いをつくっていきたい」というキノ・イグルー主宰の有坂塁さんに、これまでの活動や始めたきっかけ、映画の楽しみ方まで、たっぷりとうかがいました。

その場所でしか体験できない映画の時間を

お話のはじまりは、キノ・イグルーの活動紹介から。ちなみに上映会では、必ずその場所に合わせた映画をセレクトしているそうです。たとえば昨年、上野の東京国立博物館で行われた「博物館で野外シネマ」で上映したのは、細田守監督の「時をかける少女」。理由は、物語の重要なシーンに同博物館が登場するから。上映後に館内を実際に巡ることができるというこのイベントには、なんと4500人もの人が集まりました。

きっとみんな、こんなにも大人数で映画を観るという体験は初めて。細田監督ファンの高校生の隣に、博物館が好きなおばあちゃんがいたりして、すばらしいイベントになりました。こんなふうに、そこでしかできない映画の時間をつくるという活動を、12年間続けています。どんな映画を選ぼうかな、というわくわくする気持ちが出発点です。

実は、有坂さんが映画に目覚めたのは大人になってから。それまではむしろ映画嫌いで、たった2本しか観たことがなかったそう。映画との出会いは7歳のときの「グーニーズ」、それがとにかく面白くて、もう一度観たいと映画館に連れて行ってもらったものの、上映していたのは「E.T.」。

「E.T.」は見た目が怖いじゃないですか。「もう二度と映画なんて観たくない」と言いながら映画館の中を走り回ったのを覚えています。そう、僕が映画嫌いになったのはスピルバーグのせい(笑)。以来、まったく映画を観ずに大人になりました。でも19歳のとき、当時の彼女に無理やり連れていかれて「クール・ランニング」を観たんです。笑って、笑って、最後は涙して、そこから頭の中が映画でいっぱいになって、翌日にはひとりで映画館に行きました。

映画に心をつかまれ、レンタルビデオ店でアルバイトをするようになった有坂さん。むさぼるように映画を観る日々を送るようになり、あるとき友人がオープンした映画館で上映会を行ったのが、キノ・イグルーのはじまり。そこから、徐々に上映する場所が広がっていきました。

映画の楽しみ方を知るために、視野を広げる

今では1日1回、映画館に行く生活を続けている有坂さん。より深く感動を味わいたいから、なるべく予備知識を持たずに観る、パンフレットは必ず読む、感想を文字にしないなど、いくつかのルールを設けているそう。理解できない作品もあるけれど、それはまだその映画の楽しみ方を知らないだけ。

いかに視野を広げるかということを積み重ねてきた結果、今ではどんな映画を観ても満足できちゃう。だから、僕は絶対に批評家になっちゃいけないタイプなんです(笑)。現場でさまざまな分野のプロフェッショナルが壮絶にぶつかり合って、一本の映画が完成しただけでも奇跡、まずはそれを手放しで祝福したいんです。「あんなの映画じゃない」なんて言う人もいますけど、僕は映画を全肯定したい。映画のすべてを愛したいんです。

偶然をどう取り入れるかで、人生が変わることもある

この日、参加者のみなさんには封筒が配られていました。有坂さんに促されていっせいに封筒を開けると、中には映画のタイトルが書かれた紙が。これは「映画おみくじ」、有坂さんが手書きで好きな映画を3つ、ランダムにリストアップしたもの。

映画を自分の好みや感覚だけで選んでいると、いつか飽きちゃうんです。おみくじに書いてある映画を、ぜひ観てみてください。実際に観てイマイチでも、僕がその映画をなぜ好きなのかを考えてみると、自分にはない視点を見つけるきっかけになるかもしれません。「セレンディピティ」っていう言葉がありますが、偶然をどう取り入れるかは、その人の意識次第。もしかしたら忘れられない一本になるかもしれませんよ。

イメージと違っていた映画「ファニーゲーム」、死ぬときに観るなら「kino」、森の中で上映してみたい「霧につつまれたハリネズミ」……。その後の質疑応答でも、たくさんの映画をおすすめしてくれた有坂さん。最後の質問は、CLASS ROOM恒例の「有坂さんにとって、よい暮らしとは?」。

衣食住あれば足りるといいますが、今の時代、ただ生きることが目的ではないですよね。自分自身の生活を豊かにするには、それぞれが自分と向き合ってその方法を見つけていかないといけない。映画を観るようなゆとりがある、心の余裕がある暮らしがいいな、と思います。

>>交流会の様子はこちら

有坂塁(キノ・イグルー代表)

2003年に中学校時代の同級生、渡辺順也とともに移動映画館「キノ・イグルー」を設立。東京を拠点に全国のカフェ、書店、パン屋、酒蔵、美術館、無人島などで、世界各国の映画を上映している。2015年には「あなたのために映画を選びます。」という個人面談イベントをスタート。映画おみくじや映画サロンなど、大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。『Hanako FOR MEN』『Oggi』にて連載をもつ。
【キノ・イグルー】http://kinoiglu.com/

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