2017.8.30
Report 1/3

社食堂ではたらく私たちのワークスタイル

講師:谷尻誠 + 吉田愛(サポーズデザインオフィス)

2017年4月、建築設計事務所・サポーズデザインオフィスが「社食堂」をオープンしました。「会社の食堂」と「社会の食堂」を掛け合わせたこのユニークなスペースでの働き方を教えてくれたのは、代表を務める谷尻誠さんと吉田愛さん。予定調和を避けたいという考えから「司会の方やみなさんの質問に答える“大喜利”的な進め方でやりましょう」ということで、今回はライブ感あふれる講座になりました。その様子をお届けします。

建築の楽しさを伝えるきっかけを

講義のはじまりは、「サポーズデザインオフィス」の成り立ちから。谷尻さんが2000年に立ち上げた当初、まだ建築の仕事はなく、クラブのフライヤー制作やオリジナルTシャツの販売を行い、夜は焼き鳥店でアルバイトをする日々だったそう。

25歳のとき、勤めていた会社の経営が悪化して辞めざるをえなくなって。でも落ち込んでいてもしょうがない。「自由を手に入れたんだ」とポジティブに捉えて、趣味の自転車レースに出たりしていました。ただそれだけではどうかと思って、仕事はなかったけれど、形だけ建築設計事務所をつくったのが始まりです。(谷尻さん)


1年後に私も入ったんですが、最初は「領収書ってどこで買うんだろう?」という状態(笑)。その頃から、徐々に友人のお店のデザインを頼まれたりしはじめて、あるとき、高校時代の同級生から「ログハウスを建てたい」という依頼を受けました。それが最初の住宅設計でしたね。(吉田さん)

初めての建築設計の仕事となった住宅の完成後、そこで家具の展示会を兼ねた内覧会(オープンハウス)を開催することに。谷尻さんと吉田さんはフライヤーを街中に配り、多くの人を呼び込みました。でも実は、内覧会に建築業界以外の人を招くのは異例のことだったそうです。

オープンハウスって、基本的にはメディアや建築業界の人に来てもらって、その場で批評しあったり、雑誌に載って賞につながったりする。でも、僕も吉田も建築雑誌のアカデミックな雰囲気や難解な言葉遣いが苦手で(笑)。建築ってもっと魅力的で楽しいものだから、業界内に閉じ込めずに社会に伝えていく設計事務所があってもいいんじゃないか、そんな思いがありました。(谷尻さん)

常識にとらわれずに仕事に向き合う

そして飛躍のきっかけとなったのが、広島の傾斜地に建てた「毘沙門の家」。一般的な建築において傾斜地は平らにするものですが、そこにとらわれず斜面を生かした設計が話題を呼びました。常識にとらわれることなく、一つひとつの課題と真摯に向き合うことが、ふたりの仕事のスタンスです。

たとえばミカンって、学校で習ったわけでもないのに、みんな同じむき方ですよね。でも、ほんの少し新しい方法を試してみるだけでミカンをむくことが楽しくなるし、人に話したくなる。新しい方法を試すことを意識するだけでいいんです。「いつも通り」は失敗しないけれど、感動もない。建築においても、そういう「違和感」を大事にしています。(谷尻さん)

「常識にとらわれない」という姿勢は、施主とのコミュニケーションにおいても同じ。ある住宅設計では、「屋根を大きく開けて溜池が見えるように」という要望にストレートに応えず、階段を降りていった下のフロアで溜池の景色が広がる設計を提案したそうです。「本当は設計者が意見を押し通しちゃいけないんだけど」と言いつつも、結果的により良いものになれば受け入れてもらえると教えてくれました。

「おかん料理」で、働き方が変わる

そして「社食堂」をつくる構想が生まれたのは、仕事の忙しさからコンビニ弁当などばかりを食べているスタッフの姿を目にして、仕事の質を高める上でも食を整える必要性を感じたから。健康面はもちろん、「人間は食べたもので体がつくられる」という考えもあったといいます。そのコンセプトは「おかん料理」。

私たちのようなアトリエ系の事務所って、修行のように長時間働いて、数年後に独立するスタイルが多いんです。でも、スタッフの人数も多くなってきて、もっとチームとしていい仕事をしていきたいと思ったときに、みんなで一緒にちゃんとしたものを食べるという、生活をきちんとする上で基本的なことからやろうと思いました。メニューは日替わり定食がメイン。毎日食べられる素朴な和食を、ジョエル・ロブションで10年間働いていたシェフが技を封印してつくってくれています(笑)。(吉田さん)

また、社食堂ができたことで、ワークスタイルも変化しつつあることを実感しているそう。その効果は、食堂として外部に開かれた場所にしているからこそ生まれたもの。

うれしいのは、みんなが遊びに来てくれることですね。普通は会社に遊びに行くのって気まずいじゃないですか。でも、食堂があると、仕事の知り合いもプライベートの友だちも、みんなが来たがってくれる。もちろん飲食店としてお客さんも来ますし。ワンフロアで飲食スペースと事務所スペースがつながっているから、ノイズもあるんです。でも、お客さんの声が聞こえる環境は設計にフィードバックできるから、むしろすごくいいんですよ。(吉田さん)

また、働く上で欠かせない「モチベーション」について、施主との関係を例にこんな話をしてくれました。

以前、お施主さんからクレームをもらったとき、先方からのオーダーに向き合って、すべて解決したことがあるんですよ。最後はその方がファンになってくれたんです。その経験がすごく大きい。相手の言うことをただ聞いて、何かあれば相手のせいにするという方法もあるとは思います。でも、お互いの主義主張を話し合って物事を解決すれば、いい結果が生まれるんです。対等な立場で自分たちの意志をちゃんと示すことが、どんな仕事でも大事なんじゃないでしょうか。(谷尻さん)

そして、最後はCLASS ROOM恒例の質問「良い暮らしとは?」。

僕は「好きなものがそばにある暮らし」ですね。家の中にはガラクタもあればアートもあってハチャメチャなんですけど、どれも自分にとって大切なストーリーがある。大事なのは、一つひとつを自分のモノサシで選んでいるということだと思います。自分には何が合うのかがわかっていくことが、豊かな暮らしなんじゃないかな。(谷尻さん)


私は年齢を重ねていくことを楽しむことが豊かかなと思っていて。自分に何ができるか、何を持っておけばいいか、自分をわかるということが、年を重ねることだと思うから。女子は若いほうがモテるしいいことがあるんだろうけど(笑)、いろいろな価値観に触れて、自分のことを理解していくのって豊かだなと思うし、そう思える自分でいたいなと思います。(吉田さん)

>>交流会の様子はこちら

谷尻誠 + 吉田愛(サポーズデザインオフィス)

SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)は、谷尻誠、吉田愛率いる建築設計事務所。住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、仕事の範囲は多岐にわたる。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外合わせ多数のプロジェクトが進行中。公共施設や海運倉庫を改修した複合施設 ONOMICHI U2をオープンさせるなど地域と人の関わりをつくる仕事なども手がける。2017年4月、東京代々木上原に「社食堂」を開業。
社食堂:https://www.facebook.com/shashokudo/

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