2018.10.11
Report 1/3

ずっと使えるいいモノの選び方

講師:山田遊(バイヤー)

method(メソッド)の山田遊さん(バイヤー)は、インテリアショップ「IDÉE」でキャリアをスタートして以来、 “ものの目利き”を20年以上続けてきました。そんな山田さんは、仕事を離れて一生活者に戻ったとき、どんなものを買うのでしょう? 7月の講座では、昔から捨てずに持っているものを紹介してもらい、いいものを持つ豊かな暮らしについて教えていただきました。

バイヤーとして気づいた「3:7の法則」

バイヤーとして山田さんは、国立新美術館のミュージアムショップ スーベニアフロムトーキョーをはじめ、21_21 DESIGN SIGHT SHOP、KITTE内グッドデザインストアのほか、ローソンGINZA SIX店など、さまざまな店舗を立ち上げてきました。

いろんなお店にたずさわってきて、気づいたことがあります。どのお店でも月売上をつくるのは、取扱全品のうち3割の商品なんです。残りの7割はほぼ売れません。そして、不思議なことにその3割だけを扱うようにしたとしても、また3割と7割に分かれてしまうんですよ。それを知って僕は7割を必要悪なんじゃないかと思うようになって。その7割のなかにある、売れなくても素敵なものがお店のイメージを高めているんじゃないかな。

この「3:7」に分かれる現象を、自分の生活に当てはめてみるとおもしろいと山田さんは言います。

もしかしたら、家でヘビーユースしているものって、3割くらいなのかもしれません。僕の生活には当てはまりそうなんです。そして僕にとって、置いてあるだけで『素敵だな』『癒される』と心を満たしてくれる、特に使うことはない7割のものは、意外と、生活に豊かさを与えてくれているんだろうな。

身近にある好きなものから豊かなもの選びが始まる

そんな山田さんが昔から捨てずに持ち続けているのは、どんなものなのでしょう? よく使うものと特に使わないものに分けて、紹介してくれました。

よく使うものには、北欧のデザイナー イルマリ・タビオヴァーさんのファネットチェアをはじめ、デンマークのデザイナーカイボイスンのスプーン、ロイヤル コペンハーゲンのウワスラという食器シリーズなどを挙げてくれました。一方で、木工作家 須田二郎さんや土器作家 熊谷幸治さんの作品のほか、石ころや貝殻、海綿など、特に使わないものでも好きだと言います。

バイヤーの究極は、海辺で素敵な石ころや貝殻を拾って売るようなことだと思っていて。そう話すと、自然物にものは敵わないと思われがちです。決してそうではなくて、特に使わないものを買う時には、自然に対して人が抗うかのように手を入れている作品に惹かれています。手を入れたくなってしまう人間の性を感じられるようなものが好きなんです。

多くの人にとって、特に使わないものを進んで買おうとすることは多くありません。生活に豊かさをもたらしてくれるという、特に使わないものを買いたい場合に、まず何から買うといいのでしょうか?

よく質問されます。そういう時は、モビールをオススメしているんです。天井から吊るしておいて、風が吹くと動き、落ちた影は綺麗。モビールなら、ものが生活にもたらす豊かさを感じやすいですよ。

しかし、山田さんは特に使わないものを買うようにオススメしたいわけではないのだと言います。

シャンプーのような身近で利用するものから自分の好みで買っていくといいって思っています。例えば、美味しいドーナツやコーヒーを求めるのなら、お皿やカップにもこだわりたくなるじゃないですか。ほしいものから買っていけば、周囲のものにも関心が向くようになっていくと思うんですよ。そうすれば、いきなり何にも使えないものを買い始めなくても、本当に自分が好きで、自然といいものが家を満たしていくようになっていくかな。

ものを買ったり捨てたりすることは悪くない

講義の後は、参加者から寄せられた質問に山田さんが答えます。まずは、「ものを選ぶセンスを磨くために、何かしていますか?」という質問が寄せられました。

バイヤーとしては、『いいな』『ほしいな』と買った後、なぜそう感じたのか自分に問いかけることを意識して続けています。ただ、プロダクトデザイナー深澤直人さんが、『センスに良し悪しはない』『センスは内面から見出すものだから』と、おっしゃっていた記事をどこかで読んで、その考えにとても共感しているんです。

続いて、このような質問が寄せられました。「いいと思って購入したものも、新しく買い物をすると大切にできなくなってしまいます。そういう時に、ものを捨てることや買い物に対して罪悪感を覚えてしまうのですが、山田さんにもそういう気持ちありますか?」

買い物が好きじゃないと、バイヤーを続けていけません。だから、買い物に罪悪感を覚えることはありませんけど、ものを捨てることに罪悪感を抱くことはもちろんあります。ただ一方で、人間って変わっていくじゃないですか。歳をとったり、家族ができたり。新しい買い物をするのも、自分が変わった証だと思うので、あまり否定しないでいられるといいですよね。

最後にCLASS ROOM恒例の「あなたにとって豊かな暮らしとは?」という質問に答えてもらいました。

余白のある暮らし、でしょうか。空間的にも、時間的にも。ものに囲まれていても、空間に余裕があったら買い足せますし、配置換えをすることもできます。スケジュールを詰め込みすぎず、何かをする時間と何もしないでいい時間のバランスが取れていたら、自由ですよね。

>>交流会の様子はこちら

山田遊(バイヤー)

東京都出身。南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年、method(メソッド)を立ち上げ、フリーランスのバイヤーとして活動を始める。現在、株式会社メソッド代表取締役。2013年に「別冊Discover Japan 暮らしの専門店」が、エイ出版社より発売、2014年「デザインとセンスで売れる ショップ成功のメソッド」誠文堂新光社より発売。

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