2019.11.20
Report 1/3

自分のまちをもっと楽しむ

講師:田中元子(建築コミュニケーター)

11月講座は、みんなが使える自由な空間「喫茶ランドリー」を運営している株式会社グランドレベル代表の田中元子さんを講師に迎えました。「1階づくりはまちづくり」をモットーに、家の軒先から駐車場まで、あらゆる1階を人のための居場所としてつなげていく活動をしています。そんな田中さんに、自分のまちをもっと楽しむ方法について教えていただきました。

あるく、みつける、かんがえる

まちをもっと楽しむコツを、田中さんは3つにまとめてきてくれました。

コツは「あるく みつける かんがえる」です。喫茶ランドリーがある場所も、もとは殺風景なところでした。それが、開店する1年くらい前から、いろんなことが起きる場所に変わっていったんですよ。

田中さんにとっての、喫茶ランドリーのある場所は「自分のまち」のひとつ。そのまちの変化に気づくことができたのは、3つのコツを田中さん自身が実践していたからでした。

喫茶ランドリーがオープンする数年前に、1軒のコンビニが変わっていきました。そこは喫茶ランドリーから川を渡ってすぐにある、個人の小売店が開いていたヤマザキショップです。経営が息子さんに委譲されると、まず外に向かってカウンターテーブルが新設されて、そこにレコードを飾るようになったんですよ。

コンビニにレコード。そんな珍しい光景につられ、来店客の顔ぶれが変わっていったそう。中には、ギターを持ち出して弾く人も現れるようになったのだとか。田中さんは、そのコンビニが変わっていく渦中を、歩いていて見つけて、中に入るようになっていました。

まちはみんながプレイヤー

しばらくすると、定期的にコンビニの中でDJイベントやフリーマーケットなどが開催するようになったんですね。そのイベントは、コンビニの裏にある、人気の少ないカフェにも広がりを持っていきました。それと、喫茶ランドリーがオープンした2ヶ月後、偶然、喫茶ランドリーの近くに立ち飲み屋がオープンすることにもなりました。

日中は活版印刷業、17時からは立ち飲み屋となる店内は、店主好みの音楽やデザインで埋め尽くされていて、おもしろい空間になっていたのだと言います。

そんな風におもしろい場所が増えていくと、3kmくらい先まで噂は広まって、人が集まってくるようになるんです。店内にいる人が楽しめば楽しむほど、店外にいる人は中に入れないかなって気持ちになりますよね? 好きで集まってきた人たちと集うことは、まちを楽しむ要点だと思います。

そんな場所には、誰が主催者で誰が参加者だ、という垣根のない、居心地の良さがあるようです。

まちでは、みなさん全員がプレイヤー。つくり手と受け手、演者と観客、そういう立場は気分で変えたらいいじゃないですか。まちを楽しみたい人は、自分のまちを諦めずに、気になるお店があったら開けて、見逃さずに混じっていくのがいいなって思います。

ワクワクする人と一緒にいよう

講義の後半は、参加者の質問に田中さんが答えていきます。

Q.コミュニティを閉鎖的にしないコツはありますか?

努力。なーんてね、うそうそ(笑)パブリックであることは大事です。パブリック性をどれだけ大事にするかは、コミュニティというものに関わる人に問われていることだと思います。私は、閉鎖的な「俺たちだけのサロン」っていうのもあっていいと思っています。ただ、贅沢を言うならば、そんなサロンでも1階で開いてほしい。1階だったら、その活動に出会うことがなかったかもしれない人も、見つけることができるかもしれないでしょう?

Q.「招かれざる客」には、どう対処しますか?

実のところ、さっき話したコンビニにも出禁になった人がいます。原因は喧嘩だったり、怪しいお金の話だったりします。行政がやっていることじゃなくて、あなたがはじめたパブリックなら、ルールもあなたがつくっていいんですよ。ダイバーシティって、よく言うけれど、何か問題があったら「お断りよ」って伝える権利は持っていてよし。

Q.パブリックなことをする魅力は何ですか?

サンプルをたくさん見ることができます。18歳まで、親としか過ごしてこなかった私には、サンプルが少なかったけれど、今ではいろんな人と接することができています。いろんな人のいろんな過ごし方、いろんな価値観、いろんな喜びに触れることは、幸せなことです。できれば、いいサンプルだけ集められたらなって思います。

Q.転勤族のパートナーに出会い、2、3年で引っ越しています。どこでも楽しく過ごせる小技はありますか?

ある小学校に掲げてあった言葉が印象的でした。そこには、「あいさつは大きい声で。あいさつは自分から。あいさつは諦めずに」って書かれていたんです。あいさつをすると、無視されることもあるじゃないですか。でも、諦めない。あいさつした相手は、もしかしたら好きな人にフラれたばかりかもしれないし。人のコンディションは日々違うから、明日になったら気持ちよく返事をしてくれると思って、あいさつを続けるのがいいですよ。

最後に、CLASS ROOM恒例の質問にも答えてもらいました。田中さんにとって、「良い暮らし」とは?

好きな人と暮らすことに尽きます。好きな人といれば、砂漠の中で暮らすのも幸せに感じられると思うんです。好きな人といれば、見るものがカラフルになってくるし、ワクワクします。恋人じゃなくても、気の合う人とか、一緒にいてワクワクする人と暮らすのがおすすめです。

>>交流会の様子はこちら

田中元子(建築コミュニケーター)

1975年茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年大西正紀と共にクリエイティブユニットmosaki(モサキ)を共同設立。建築やデザインなどの専門分野と一般の人々とをつなぐことをモットーに、建築コミュニケーター・ライターとして、主にメディアやプロジェクトづくりを行う。2010年よりワークショップ「けんちく体操」に参加。同活動で2013年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。2015年よりパーソナル屋台の活動を開始。2016年株式会社グランドレベルを設立。主な著書に『マイパブリックとグランドレベル―今日からはじめるまちづくり』。

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