世の中で生きている人は、みんなが主人公。

大学に入ってからは、やっぱり変な人がたくさんいたけれど、以前よりもゾクゾクしなくなってきて。その反動か、学外の人とたくさん出会うようになっていきました。そういう中でだんだん「世の中の人って、みんな変で面白いんじゃないか?」と思うようになってしまって、毎日、どんな場所でも妄想が始まるようになってしまって……(笑)。電車の中で隣に座っているこの人も実はいろいろあるんだろうなと思ったら、世界中の人がみんなマンガの主人公みたいに思えてきて。

決定的なきっかけは、飲食店でのアルバイトです。場所柄、芸能人の方も来るようなお店だったんですが、赤ちゃんからお年寄りまでいろいろな「普通の人」も来る。そういう人たちを観察して、妄想しはじめると夜も眠れないんですよ。今日来たあの人って、もしかしたらこんな趣味を持っていて、本当は家ではこんな格好しているんだろうなとか思うと楽しくて止まらなくて。それこそ物語です。

みんなが普通に生きている世の中はこんなに面白いんだって気づいてからは、自分の価値観がさらに変わりました。この感覚は今も続いていて、私が書く小説やエッセイの源にもなっています。マンガや小説で出会う人物と、実際に世の中で生きている人々は、私にとっては「主人公」という意味で同じレベルです。だから、毎日、心が忙しくて大変。妄想が追いつかなくて(笑)。

たくさんの物語を回収して、作品をつくっていく。

作品をつくることって、よく「自分との対峙」だっていわれていますよね。でも、作品は自分ひとりの力でできるのではなくて、いろんな人に出会ったり、いろんな感性を知ったり、いろいろな物語を回収して、それを自分の中の世界と確認しながらできていく。むしろ、他人に興味を持つようになったから表現できるようになったのかもしれません。

たとえば朗読では、言葉を空気の上に置いたときに、その言葉が別のものに変わる瞬間があります。言葉を音にして声で出すことで、それまで気づかなかった文章の別の側面を知ることがあるんです。音楽も、聴くシチュエーションによって、印象が変わりますよね。それと似ている感じがします。

私、ミュージシャンってすごい生き物だなあ、と年を重ねるごとに感じていて。ひとつの曲でこんなに誰かのそばにいつづけて、誰かの人生を変えられて。私の朗読の音源を「通学中に聴いています」という子がいるそうで、きっと私がミュージシャンの曲を耳にするのと同じような感覚で聴いてくれているのかなと思います。日常に何か別の世界を持ち込むと、心が旅をしているような気になります。

時間軸が混在した瞬間、毎日はワンダーランドに。

自分が知らない価値観を知って、世界が変わる瞬間にゾクゾクしてきたから、私も誰かにそういうことを与えられる人になりたいと思っています。自分の人生に違う物語が介入してきて、時間軸がこんがらがる瞬間がたぶん面白いんだと思う。自分が生きている時間と別の時間がこの世にあるんだって感じられると、いつもの世界がワンダーランドに見えてくる。

そういう意味では、ファッションってけっこうワンダーランドだと思います。いつもはスーツを着ている人が、休日は違う格好をすると別の自分になった気分になるとか、すごくいいホテルに1泊だけ泊まりに行くと次の日の日常生活も変わってくるとか。そういうこともきっとあると思います。

もちろん、マンガを読んだり、音楽を聴いたりすることも同じだし、世の中に生きている人と触れ合うこともそう。私の場合、今は将棋かな。この10年間、『3月のライオン』というマンガにハマっているのですが、そこから本当の将棋の棋士のみなさんにハマってしまいました。生い立ちや人間関係について、朝から晩まで喋れますよ。みなさん個性的だし、戦う姿って感動するんです。私の将棋レベルは、ルールがわかるのに毛が生えたレベルですが(笑)。自分が知らなかった価値観を毎日の中に取り込んで楽しい気持ちになる、そういう意味では毎日がワンダーランドですよね。


物語にあふれる私の暮らし

物語にあふれる私の暮らし

講師:前田エマ(モデル)

モデルのみならずエッセイ、アート、ナレーションなど幅広い分野で活躍されている前田さんに、暮らしの中でどのように物語にふれインスピレーションを得ているのか、「物語を楽しむ」ヒントについてお話をうかがいます。当日は前田さんの朗読を通して非日常の世界観をぜひ一緒に愉しんでみませんか。

日時
2017年11月22日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2017年10月16日(月)~11月13日(月)
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前田エマ(モデル)

1992年神奈川県うまれ。2015年春、東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、その分野にとらわれない活動が注目を集める。芸術祭やファッションショーなどでモデルとして、朗読者として参加、また自身の個展を開くなど幅広く活動。現在、雑誌『OZ magazine』・女性の多様な生き方を探るウェブマガジン She isにて「服にあう」連載中。
[連載]She is:https://sheishere.jp/hottopic/201709-emmamaeda/