読書が連れていく別世界

私は他の人よりも読書をしていますし、親から学校にも通わせてもらえました。だから世界の解釈はすごい広がっていると思うのですけれど、銀行の残高は増えていません。おかしいなぁ……。そう感じていたときに、「見えないお金」が存在しているのなら、すべてのつじつまが合うと思いました。最近はそんな「見えないお金」が増えていったら、どんなふうに人生が変わるのだろうということを想像しながら、読書を楽しんでいます。

1冊の本を読んでいると、次に読みたい1冊が見えてきて。先日は森田真生さんの『数学する身体』を読んで、岡潔さんの本を読みたくなり、読んでみたら、岡さんが小林秀雄さんと対談していたことを思い出して、それを読みたくなりました。そのように、1冊の本は次から次へと別の世界に連れていってくれるものなのですよね。

あれは、5年前のことだったでしょうか。韓国の大企業の方が日本に視察で訪れた際に、こんなことをおっしゃっていました。日本が先進国として過ごした約50年で残したもののうち、最大の成果は本屋さんだったのではありませんかと。それから月日が経った2018年、韓国のソウル市には毎週1軒のペースで本屋さんが開店しているらしいのです。

本屋さんで出会えるオリジナリティ

その本屋さんは、デザイン事務所兼書店とか、カフェ・バー兼書店というふうに「何か+本屋さん」という形ではあるのですけれど。中国の上海市や北京市でも同じような状況が生まれているそうです。8月4日から3日間、私は招待されて中国に向かったのですけれど、そこでも本や本屋さんの話をしてきました。中国では政府がどうも本屋さんをつくることに予算をつけつつあるようです。大きな書店が今後いくつもできる計画があると聞きました。

中国は「コピーをする国」というイメージがありますけれど、もう二番煎じは通じないそうです。そんなオリジナルを求める人たちが価値を感じはじめたものは、読書でした。Webには膨大な情報があるように思えても、実際はこの世界の1%も記録できていないという予感を頼りにして。

そういうWebからこぼれ落ちてしまう世界があるということに、私たちも何かヒントを感じてみるといいのかもしれませんね。それが何になるのかは、私もさっぱり、わからないのですけれど。今ある言葉では語られていない、別の何かはまだあると思っていて。とらえきれないことを「そういうことだったのか」って、とらえたい気持ちに躍起になっていたいといいますか。

この世界をもっと楽しく

最近は、『I Love Youの訳し方』という本をいいなと思いました。愛は課金されるものではありませんから。奥様や恋人を愛することに価値はあっても。1度、課金するようにしてみたらおもしろそうです。

例えば、愛を持つ人のことを逮捕する警察ができたらどうなるのでしょう? 電車で座席を譲った人を見つけたら「お前、良いことしただろう?」と捕まえて、警察署の地下室に連れていき、マッサージをして労ってしまうというふうに。「見えないお金」が貯まっているだろう人には、報われてほしいな。

こういうとりとめのない話をしていると、言葉になっていない何かがポロッと生まれてくるような気はしていて。私も極楽や浄土に行けるのならいいのですけれど、ハワイにだって行く機会はありませんから。せめて、高杉晋作さんの辞世の句のように「面白き事もなき世を面白く」というふうに暮らしていきたいのですよね。

本屋の楽しみ方

本屋の楽しみ方

講師:森岡督行(森岡書店代表)

8月講座の講師は、銀座の中心から少し離れた場所で、一冊の本を売る本屋「森岡書店銀座店」を営む森岡督行さんです。『本屋の楽しみ方』と題し、週替わりで一冊の本に限って販売する本屋が生まれた背景や、森岡さんが「本屋の現在」をどのようにとらえているかなど、本の魅力についてお話いただきます。

日時
2018年8月27日(月)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2018年8月8日(水)~8月20日(月)

森岡督行(森岡書店代表)

1974年生まれ。著書に『Books on Japan 1931-1972』(BNN新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)などがある。出展、企画協力した展覧会に『雑貨展』(21-21design sight)、『そばにいる工芸』(資生堂ギャラリー)、『エルメスの手しごと展 “メゾンへようこそ”』(銀座メゾンエルメス)などがある。『工芸青花』(新潮社)編集委員。同サイトにて日記を連載中。森岡書店のビジュアルデザインとブランディングに対し2016年、レッド・ドット・デザイン賞(ドイツ)、iFデザイン賞(ドイツ)、D&AD・Wood Pencil賞(イギリス)、グッドデザイン・ベスト100(日本)を受賞した。本年、第12回『資生堂 art egg賞』の審査員をつとめている。