旅を楽しくするふたつのこと

ぼくには旅をするときに大切にしていることがふたつあります。ひとつは、地名の漢字が読めない地域に行くこと。例えば、広島県の神石高原町(じんせきこうげんちょう)や大分県の佐伯市(さいきし)なんて、読み間違えてしまいがちです。地名を読めないことは、自分にインプットがない証なので、まだ出会っていないことがあるという旅の伸び代なんですよ。

知らない地域で出会うことに感動すると、その地域のファンになれて、楽しい。あとひとつ大切にしていることは、調べものは旅の後にすることです。先に調べると、どうしても団体旅行のようなプランを立ててしまいます。ぼくの旅っていうのは、魚のいる地域に行きたいという気持ちがあるから、事前に魚以外のことは調べません。

他のことは、旅をして帰ってきてから調べると、その知識がぼくなりの筋肉になっていくと思うんですね。復習型の旅をすると、地域への関わり方を深められるんじゃないかな。昔から、そうしていたんですよ。川に行って、1日中、誰とも話さないし、空虚な時間を過ごしたかったから。予定が入っていない無為な1日を過ごしていても、その川にヤマセミの巣がいっぱいあるようなことには気づくので、あとで画像検索したり、研究者がたくさん来ていることを知ったりして、楽しくなるんです。

好きを視点に地図を開こう

一昨年からは、地域を訪れる新しい方法も見つけました。それも魚なんです。それは田んぼ付近の川にいるタナゴと、森の川にいるイワナが関係しています。その2匹が住んでいる地域は、自然や動植物にとって豊かな場所だと気づいたんです。日本でも限られた地域にしか2匹が同時に生息することはなくて、ぼくの中ではこの2匹がいるかいないかという狭い視野で地図を見るような視点があります。

これも大事だと思うんですよ。日本地図には、よく人口や交通に応じて地名が大きく書かれていたりしますよね。その地名の大小は、ぼくたちが日常生活を過ごすうえで大事な大小ではあるんですけど、もっと自分の好きなものごとを中心に置いた視点で地図を見てもいいんですよ。すると頭の中で地名の大小は変わってきます。

例えば、山登りをしている人からしたら、山形県の鶴岡市であったり、長野県の松本市であったり、山に入っていくエントリーとして大事な地域があります。ぼくにとっては、山形県の米沢市がとても大きな地名であったりもするんです。それって、もしかしたら本が好きな人にとってとか、コーヒーが好きな人にとってなど、もっと違う地名が大事になっていくことなのかもしれませんよね。

旅をする人が深める地域の魅力

旅って、ぼくにとっては、1日の中で自分自身が使い切れていなかった異なる空間での時間を使えることに楽しさがあるんですね。東京にいる生活は、確かにワクワクするんですけど、もう1個、自分がワクワクする時間があることって大事ですよ。家族がいたり、会社に属していたり、いろんな空間で暮らしているなら、なおさら必要な時間だと思います。

旅をするように、空間を移動し続けていると、ここにいる自分では出会えないものを見つけられたりするんですよね。そのように地域に外から入っていく人の視点は、地域にとっても良いことがあります。ぼくは群馬県の高崎市出身なんですが、仮に鹿児島県出身の友人が高崎に来てくれたら、その人にとって新しい出会いがあると思うんです。

そんなふうに旅できた人の新しい出会いは、地域の人に新しい視点を与えます。すると、地域を単眼的にしか見ていなかった目に、複眼的な視点が生まれて、その地域に住んでいる人がただのひとつの地域として、そこにある魅力を見つめはじめることができます。地域の人が地域の魅力を深めていくレッスンになるんですよね。

まだ知らない地域の魅力に会いに行く旅

まだ知らない地域の魅力に会いに行く旅

講師:指出一正(『月刊ソトコト』編集長)

1月講座は、地域のものづくりや文化の魅力を都市で暮らす生活者に提案する「旅ルミネ」との連動企画となります。講師は、ソーシャル&エコ・マガジン『月刊ソトコト』編集長の指出一正さんです。『まだ知らない地域の魅力に会いに行く旅』と題し、旅をきっかけにした地域との関わり方や、人とふれあうことで感じられる魅力などについてお話いただきます。

日時
2019年1月16日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2018年12月20日(木)〜2019年1月6日(日)

指出一正(『月刊ソトコト』編集長)

1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現『ソトコト』編集長。ロハス発祥の地と言われる、アメリカ・コロラド州ボールダーや、アフリカ、アイスランド、中国の現地取材を担当。趣味はフライフィッシング。民俗学や手仕事の分野にも興味があり、両方の要素から東北に惹かれ、出かけることが多い。昔の日本人に通じるひとつの村の暮らしぶりが見える地域も好きで、日本中のさまざまな地域を旅している。