この1冊をきっかけにして

ぼくはもともとレコード店「WAVE」のバイヤーをしていました。カセットも聴いていて、気づいたら家中にすごいコレクションをそろえていたんですね。ただ、ずっとカセットを聴いていたかというと、そうじゃなくて。ちょうどiTunesが日本で利用できるようになった頃、ラジオカセットレコーダーもカセットも1回すべて手放しているんですよ。

それが、ある1冊の本との出会いをきっかけに、またカセット熱に火がついたんですね。その本は、ノイズパンクバンド「Sonic Youth(ソニック・ユース)」のボーカルThurston Moore(サーストン・ムーア)が編集した『Mix Tape: The Art of Cassette Culture』(Universe発行)でした。彼が友人たちから、昔つくったカセットを集めて1冊にしたアートブックなんですよ。

この本に載っているカセットは、どれも彼女や友人にあげたくてつくられたハンドメイドのプレゼント。それを、本が出版された2004年に見てみると、ムーアにはアートだと感じられたんですね。ぼくはそれを見て、もう1回、カセットを収集するようになったんですよ。「格好良い、アートだな」と、気持ちに刺さったんですね。

1回切りの人生にやりたいことを

それで、WAVEのあとに転職してから14年勤めていたアマゾン・ジャパン合同会社を退職して、株式会社ワルツ社を創業しました。amazonのような世界の大企業にいて、14年間で上長になっていたし、良い給料をもらえてもいたのに、退職して、waltzのようなお店を開店したから、周りのみんなには頭がおかしくなったんじゃないかって言われましたよ(笑)。

でも、人生は1回切りなんで、やりたいことを我慢して年月を過ごしてしまったら、もったいないと思ったんですね。そうして2015年8月にwaltzをオープンして、3期目を終えます。2年目から黒字経営できていて、今のところはうまく、楽しくやれているかなって気がしているんですよ。それは、いろんなことにこだわってwaltzというお店をできているからかもしれませんね。

一言で言い表すことは難しいけれど、新譜を整然と並べているテーブルを見てもらったように、waltzでメインに据えているのは現在進行形のカセットなんですよ。ぼくはこの現在のカセット音楽カルチャーを紹介したいという気持ちが強いんですね。だってね、ここにそろっているカセットに入っているのは、まだ誰も聴いたことのないような音楽ばっかりだから。

カセット音楽は生活に彩りを添える

ぼくが1作品ずつにカセットサイズのキャプションを付けて整然と並べているのは、この一つひとつのカセットをアートだと思って陳列しているからなんですね。アンティークなテーブルに平積みしておくと、可愛いことに気づく感性とカセットが出会うんですよ。

お客さんの多くは、カセットを見て、今の感性や視点で、「カセットってありだな」と思ってくれている人ばかりですよ。レコードを聴くよりも、カセットって手軽なんですね。お客さんの中にも、料理をしながら音楽を聴きたいから、小さいレコーダーと一緒にカセットを購入しに来てくれる方がいますよ。

そういうお客さんたちは、生活に彩りを添えるBGMとして、カセットを体験しているんだと思うんです。キッチンやリビングにレコーダーがあって、ダイニングテーブルには数本のカセットが積まれている。夕方のちょっとリラックスしたいときに、そこから1本選んでお茶を飲みながらカセットを聴く。そういうライフスタイルが心地良いものとして受け入れられてきているんですよね。

女子のための音楽入門講座

女子のための音楽入門講座

講師:角田太郎(waltz店主)

6月講座の講師は、日本唯一のカセットテープ専門店である中目黒「waltz」店主の角田太郎さんです。『女子のための音楽入門講座』と題し、カセットテープやレコードなどのアナログメディアの音楽をライフスタイルに取り入れることの醍醐味や、この季節にピッタリの音楽の楽しみ方をお話しいただきます。

日時
2018年6月27日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2018年6月8日(金)~6月20日(水)

角田太郎(waltz店主)

1969年、東京都生まれ。CD/レコードショップ WAVE渋谷店、六本木店でバイヤーを経験後、2001年にアマゾン・ジャパンに入社。音楽、映像事業の立ち上げに参画。その後、書籍事業本部商品購買部長、ヘルス&ビューティー事業部長、新規開発事業部長などを歴任し、2015年3月に同社を退社。同年8月に東京・中目黒にカセットテープやレコードなどを販売するヴィンテージセレクトショップwaltzをオープン。また、さまざまな企業や店舗、イベント等のための選曲を行うほか、同ショップは、2017年12月、Gucciがブランドのインスピレーション源になった場所を紹介するプロジェクト「Gucci Places」に日本で初めて選出された。