2015.08.30
Report 1/3

メディアアートで世界を面白がる

講師:真鍋大度(メディアアーティスト)

プロジェクションマッピングやドローンなどを使ったPerfumeのライブの技術サポートをしていることでも知られ、国内外でプログラミングを駆使した作品が高い評価を得ているメディアアーティスト、真鍋大度さん。新たな技術を使って生み出される芸術「メディアアート」の面白さやこれからを、自身の作品を“実演”しながら教えてくれました。『AERA』『朝日新聞』の連載企画「21世紀をつくるニッポン人名鑑」の公開インタビューとして行われた、その様子をどうぞ。

体の動きを音や光に変換する

最初に真鍋さんが見せてくれたのは、「Refined Colors」というダンス公演の映像。音響や照明は、世界中を巡って見つけた、さまざまな国の「色」と「音」をモチーフにしています。真鍋さんはこのとき、作曲家として音響を担当した“ついでに”、照明を制御するプログラムも開発したそう。真鍋さんが情報科学芸術大学院大学(IAMAS)を卒業して初めて参加したメディアアート作品でした。

僕はもともと、両親とも音楽家の家庭に生まれました。大学では数学科でプログラミングを学び、メーカーに就職してシステムエンジニアに。退職して、IAMASでメディアアートを学んだんです。学校では、センサーを使っていろいろなことができることを知りました。そして、この「Refined Colors」を通して、ダンサーの体にセンサーをつけ、動きを音や光に変換することができるんじゃないかって思ったんです。

これが、真鍋さんが自主的にやりたいことを見つけた瞬間。生体信号に興味を持ちはじめた真鍋さんは、2008年に「Electric Stimulus to Face」を発表。自分の顔に電極をつけ、表情筋を無理やり動かすこの映像作品で、世界的に注目を浴びることになります。

YouTubeに「Electric Stimulus to Face」をアップしたら、100万ビューを記録したんです。当時はまだツイッターで拡散していくようなこともなかったので、日本で100万を超える動画は数えるくらいしかない、ネットがまだゆるやかな時代。そのうち勝手に真似する人が出てきたり、たくさんの人が単純にこの作品を面白がってくれたんです。

今回、会場に持ってきてくれたのは、「Electric Stimulus to Face」で使っていたのと同じ電極やセンサーなど。実際にそれを装着して、自分自身の顔で実演してくれました。真鍋さんの口もとがピクピク動く様子に、会場からも笑いが。

人工知能を生かしたメディアアートを

真鍋さんが今、興味を持っているもののひとつは「人工知能」。たとえばアマゾンが購入者のデータを蓄積・解析して販売促進に活用しているように、最近はさまざまなサービスを通して自動的にデータが収集され、使われている。そのことを危険視する人もいるけれど、面白がることもできるのでは、というのが真鍋さんの考え。

実際に僕も、DJイベントに来たお客さんのiPhoneに入っているプレイリストを集めて、「フロアにいる人の人気はレディオヘッドだ」「バーにいる人はマッシヴ・アタックだ」と解析して、どうやったらフロアにお客を集めて盛り上げることができるか、ということをやっています。どんなテクノロジーもそうですが、悪用する方法は簡単に思いつく、逆にいい方向に使おうとするほうが難易度が高い。誰もやっていないものをつくるのは最低限、最終的には人を感動させられる作品がつくれればと、いつも思っています。

そのほかにも、株式市場での取引データをリアルタイムで可視化した作品「traders」を発表したり、ゲームエンジンとドローンを組み合わせたプロジェクトが進行中だったり、新たなテクノロジーを駆使したメディアアート作品を、次々に制作・発表。今年から来年にかけては、自主プロジェクトに集中して取り組むそうです。

テクノロジーで人々の考え方を変えていきたい

これまでの作品を振り返ると「機械と人間の関係」がテーマになっているけれど、実はこだわりはない、と真鍋さん。ただの実験だと思われることもあれば、アートだと思われることもあるし、ときには、医療の現場で使いたいという申し出があったりすることも。話の最後は、これからやってみたいことについて。

作品を通して、幅広い人がいろんなことを考えられたらいいですね。その作品に触れたことで、考え方が変わるような。たとえば今、インターネットの世界は、妙に揚げ足をとったりするようなムードがありますが、こういう問題を解決できるのはテクノロジーしかありません。たとえばインスタグラム。あのサービスも、もちろん情報を蓄積・解析しているはずだけど、誰も嫌な思いはしていないですよね。今はまだ、誰もやっていないことをひたすらやりまくっていますけど、新しいテクノロジーを使って、よりよい世界をつくっていけたらと思っています。(こんなことを言うなんて)最近年をとってきたせいですかね(笑)。

「真鍋さんにとって、よい暮らしとは?」という、CLASS ROOM恒例の質問にも答えてくれました。

僕は音楽からはじまっているところがあるので、シンプルですが「いい音楽を聴ける環境」ですね。本は自分のペースで読めるけど、音楽は途中で止めて、あとで続きを聴くっていうことがしづらい。時間をしっかりとって、音楽を聴くことができたらいいなぁ。

>>交流会の様子はこちら

真鍋大度(メディアアーティスト)

1976年生まれ。2006年にデザインファーム「Rhizomatiks」を共同設立。2015年よりRhizomatiksの中でもR&D的要素の強いプロジェクトを行う「Rhizomatiks Research」を石橋素氏と共同主催。2010年よりPerfumeのライブの技術サポートを行う。2014年には東京オリンピック招致のプレゼンテーションで披露された映像インスタレーション、パリで行われた「アンリアレイジ」のショー演出も話題に。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。
【ライゾマティクス】http://rhizomatiks.com/

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