2019年11月講座は、1階づくりの専門会社「グランドレベル」代表の田中元子さんが講師です。墨田区「喫茶ランドリー」をはじめ、軒先、沿道、公園など、人の居場所を広げる活動で、多様さを受け入れるまちづくりに取り組む田中さんに、まちと私の交差点を見つける方法やまちを進んで楽しむ振る舞いについて話してもらいました。

人の顔が見える場所の居心地

2016年9月、グランドレベルを設立しようと、「もうすぐ、1階専門の会社をつくるのね」って、友人に話して歩きました。そうしたら、創造系不動産の方からビル1棟のリノベーションをご相談されて。とにかく、1階はランドリーカフェがいいんじゃないかと提案したんです。

私が想像していたランドリーカフェは、デンマークの首都コペンハーゲンにあるランドロマット カフェでした。そこは、外から見えない隅っこに洗濯機がちょっとあって、それだけでいろんな年齢層の老若男女が行き交っている。喫茶ランドリーも「こんな裏通りで誰が商売するの?」という立地なんですが、だからこそ人の顔が見える場所をつくるべきなんじゃないかって燃える気持ちだったんです。

喫茶ランドリーをつくる際には、男性、おひとりさま、お年寄りの三者が抵抗感を抱かない中性的なデザインを意識しました。あと、テーブルや椅子を低めにして、せめてネクタイを緩めて落ち着ける居心地をつくろうと。背の低い日本人でもがっつり腰が座るようにして、喫茶店特有の居心地やだらしなくする事が許される空間を目指したんです。1階は用事がなくても必ず目に触れる場所。「みんな、どうぞ」ってなっていたら公的かなと思って。

人の気配を感じる暮らしの質

1階や公的なものに興味を持ったきっかけは、屋台活動でした。自前の屋台を持っていまして、まちに出て、「1杯飲んで、ゆっくりしていったら?」と声をかけるFree Coffee活動です。私が小遣い程度のコーヒー豆を用意して、たった数時間、振る舞うだけで、いろんな人とお話しできた。

知らない人と話したら、社会っていうつかみどころのないものに触れることができたように感じて。通行人や市民、大衆って呼ばれるものも一人ひとりの人間だっていう手応えが実感できたのはすごく嬉しかったんです。道沿いに屋台を出していたから、お店やベンチがあると人はそこでゆっくりしたり、お話ししたり、まちの中で人の打ち解け合いが生まれる。1階を頑張ったら、まちがよくなるとも思ったんですよ。

喫茶ランドリーは、まちから店内が見えるようにしていて。すると、中で人がお話ししていることや、盛り上がっていることが見えると、まちの人が人の気配を感じながら暮らしていける。そういう状況で一生を暮らすことは、人の気配を感じづらい環境と異なる人生の質になるだろうし、社会観を変えることにもなるんじゃないかな。

素敵なまちに共通すること

高層マンションが並んでいるところは、いろいろ便利で、人がたくさん暮らしている。なのに、こんなに寂しげなのはなぜなんだろう。人がいるなら、その分、顔が見えていてもおかしくないはずだし、1000人いてもみんな閉じこもっているまちより、100人でも外に出ていて、挨拶や食事をしているわちゃわちゃしたまちが好き。

そんなまちの1階で、人が笑っているのは望ましいですけど、たまに喧嘩していたり、泣いている人がいても、ヒューマンビーイングだと思うよ。人が寄り道したり、のんびりくつろげたりするまちを、「素敵だな」って感じることは多くて。でも、人の気配が感じられるまちって、何も人が見えているだけじゃない。

パリッとアイロンされた清潔な暖簾がかかっていたり、きちんと手入れされたお花がしつらえてあったり。私が見かけたときはたまたま人がいなくても、誰かが手入れなさっている愛情を込めた物が置いてあるような風景。だから、都会が好きなんだとも思うんです。

自分のまちをもっと楽しむ

自分のまちをもっと楽しむ

講師:田中元子(建築コミュニケーター)

11月講座の講師は、みんなが使える自由な空間「喫茶ランドリー」の運営をしている株式会社グランドレベル代表の田中元子さんです。「1階づくりはまちづくり」をモットーに、家の軒先から、歩道、建物の1階、公園、駐車場など、あらゆる1階を人のための居場所としてつなげていく活動をしている田中さんに、社会と自分の交差点を見つけ、自分の住むまちを能動的に楽しむ方法をお話いただきます。

日時
2019年11月20日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2019年10月17日(木)〜11月10日(日)

田中元子(建築コミュニケーター)

1975年茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年大西正紀と共にクリエイティブユニットmosaki(モサキ)を共同設立。建築やデザインなどの専門分野と一般の人々とをつなぐことをモットーに、建築コミュニケーター・ライターとして、主にメディアやプロジェクトづくりを行う。2010年よりワークショップ「けんちく体操」に参加。同活動で2013年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。2015年よりパーソナル屋台の活動を開始。2016年株式会社グランドレベルを設立。主な著書に『マイパブリックとグランドレベル―今日からはじめるまちづくり』。