2015.11.25
Report 1/3

Fab入門

講師:渡辺ゆうか(ファブラボ鎌倉)

3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を備え、自由にものづくりが楽しめる場「ファブラボ鎌倉」。今回は、設立メンバーのひとり・渡辺ゆうかさんが、「Fab=デジタル・ファブリケーション(デジタルを使ったものづくり)」について教えてくれました。今、急速に広まりつつあるものづくりの新しい形、その楽しみ方とは?

子どもからおじいちゃんまで、ファブに夢中

「ファブラボ」は、もともとマサチューセッツ工科大学で行われていた研究が、社会的実験として普及してきた活動でもあるそう。今では世界各国に広がり、それぞれのラボが独立してゆるやかなネットワークを形成しています。その取り組みを知った渡辺さんが、慶應義塾大学の田中浩也准教授とともに日本初のファブラボとして2011年に立ち上げたのが「ファブラボ鎌倉」。古いものと新しいものを融合させて次世代につなぐことをテーマに、なんと築125年以上の古い酒蔵を利用して活動しています。

「サービスを提供する」という立場になると、どうしても参加者が「お客様」になってしまうのですが、ものづくりを広めるときには、ゲストもホストも関係ない場にしたいなと考えたんです。そこで、毎週月曜の朝9時に集合してもらい、掃除をした人が機械を使えるという決まりにしました。お寺でも朝は掃除するじゃないですか(笑)。

目指したのは、1回だけでなく100回来てもらえる場づくり。現在は、いわゆるアクティブシニアや主婦層を中心に、子どもから高齢者まであらゆる年代の人が参加中。結婚式のリングピローを仲間同士でつくったり、寺社仏閣を採寸してモデリングするおじいちゃんがいたり……。その人にしか必要ないものかもしれないけれど、それぞれに愛らしいストーリーがある、と渡辺さん。

同じデータを日本とケニアで共有したら……

渡辺さんがファブの大きな特徴としてあげたのが、モノのデータをウェブで共有する「オープンデザイン」という考え方。その一例として、ファブラボ鎌倉でトレーニングを受けた革職人さんがデータからつくるスリッパを提案したところ、それがアフリカでも活用されていることを話してくれました。

ケニアのファブラボからスリッパのデータを使わせてほしいと依頼されて、その後の経過を写真で送ってもらったんです。それがすごく楽しくて。通常は廃棄される魚の皮を使って赤いサンダルをつくったり、ひび割れた大地の写真をスリッパに照射したり……。ついには、ラボの近所に住んでいるオバマ大統領のおばあちゃんにスリッパをプレゼントしたら、それがホワイトハウスで展示される、なんていうことも起こって。

スリッパをデザインしたのは、革職人ユニット「クルスカ」の藤本直紀さんと藤本彩さん。2人もファブラボでデジタル機器の使い方を学び、ワークショップを開催するようになり、今では世界を飛び回っているそうです。ファブを通して人の行動が変わっていく、渡辺さんが可能性を感じるのはそんなとき。

“わざわざつくる”ことにはメリットがある

同じデータを使っていても、アイデアや素材が異なれば、異なるプロダクトになる。たとえば世界有数の森林国である日本なら、木材を使ったり。そこで、間伐材を使ってものづくりを行う「フジモックフェス」というワークショップを開催したところ、面白い気づきがあったと渡辺さん。

日本には森林という資源を循環させる文化がありますよね。ファブでも同じように、プラスチックを3Dプリンタの素材にすれば、今日はコップだったものを明日はお皿にすることができる。そんな循環ができたら、すごく21世紀っぽいなって。お金で買えるものをわざわざつくるのって効率的ではないように思えるけれど、その中には、暮らしを豊かにしてくれる価値があるんです。

ファブラボ鎌倉が掲げているのは「ほぼあらゆるもの("almost anything")をつくる」ということ。でも、実際にものをつくっていると、漆製品やペットボトルのフタが、すごくよく考えてつくられていることがわかるのだそうです。

ファブで実現する、個人に寄り添うものづくり

講義の終わりには、参加者のみなさんからのたくさんの質問に答えてくれました。「服や下着もファブできる?」という疑問には「袖の長さや丈を変えたり、個人に合わせたものがつくれるから、ファッションとファブの相性はすごくいい」、「夢は何ですか?」という問いには「ファブを広めることで働き方の選択肢を増やすこと」などなど。

メガネやジュエリー、靴のデータもウェブにあがっていますし、ファッションや雑貨だけじゃなく、ハンディキャップを持っている人のための補助器具をデザインしている人もいて。データをダウンロードすれば3Dプリンタで出力できる、いわば“料理レシピサイトのモノ版”がすでにあります。さらに一緒にファブラボを立ち上げた田中浩也さんが「ほぼなんでもつくれるなら、仕事もつくれますかね?」とも言っていて。ここから新しい働き方が生まれてきたら面白いですね。

そして恒例の質問「渡辺さんにとっていい暮らしとは?」には、こんなふうに答えてくれました。

自分に合わせて、暮らしをチューニングできたらいいなと思っています。自分らしさというか、自分の周波数に生活を合わせていくような……。わかりづらいですかね? 簡単にいえば、靴のほうを足に合わせるということ。そうすれば、靴ずれしなくて済むじゃないですか(笑)。

>>交流会の様子はこちら

渡辺ゆうか(ファブラボ鎌倉代表)

多摩美術大学環境デザイン学科卒業後、都市計画、デザイン事務所を経て、2010年ファブラボジャパンに参加。2011年5月東アジア初のファブラボのひとつである、ファブラボ鎌倉を田中浩也氏と共同設立し、2012年にFabLabKamakura,LLC を立ち上げ、2015年7月一般社団法人 国際STEM学習協会の代表理事を務める。地域と世界を結び、デジタル工作機械の普及により実現する21世紀型の創造的学習環境構築に向けて、世代や領域を横断した活動を展開している。今年12月、これからの学習に特化した国際会議 FabLearn Asia 2015を横浜で開催予定。只今奮闘中。
【ファブラボ鎌倉】http://www.fablabkamakura.com/

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