2019.01.16
Report 1/3

まだ知らない地域の魅力に会いに行く旅

講師:指出一正(『月刊ソトコト』編集長)

1月講座は、地域のものづくりや文化の魅力を都市で暮らす生活者に提案する「旅ルミネ」との連動企画。ソーシャル&エコ・マガジン『月刊ソトコト』編集長の指出一正さんを講師に招き、「まだ知らない地域の魅力に会いに行く旅」というテーマで、旅における地域との関わり、人との触れ合いなどの魅力を教わりました。

旅の醍醐味は「発見」という「経験」

旅行といえば、有名な観光地を巡るイメージを浮かべることは少なくありません。しかし指出さんは、あえて「小さな地域」に出かけることをオススメしてくれました。

小さな地域を旅すると、おもしろい出来事に出会えます。小さな地域とは、Webを探しても、なかなか情報が出てこないような地域です。なぜなら、旅の醍醐味は、行った先々で自分の知らないことに出会う『発見』にあると思うんですよ。

そんな「小さな地域」は、どのように見つけたらいいのでしょうか。

地名を見たときに、名前を読むことができない地域に行くと、知らないことに出会える可能性は高くなります。そして、ぼくの場合は旅先を訪れる前にガイドブックを見ないようにもしているんです。事前情報に目を通さずに訪れたら、その時々でしか出会えないことに触れられる。それが、『経験』と呼べる旅なのかな。

指出さん自身は、森の川魚・イワナに関心があって、イワナを基準に地域を訪れることもしばしば。指出さんのように、自分なりの視点を持つことは、知らない地域の魅力を経験する手引きになるのだとか。

各地には、人間がつくったものと、自然が残してくれているものが点在しています。そして、どちらもバランスを保って、共存している地域もたくさんあるんですね。そのような地域と出会うことに、自分らしい小さな視点を持つことは、つながっていくものだと思いますよ。

地域を訪れて自分の幸せを見つける

小さな地域を、自分自身の好みに合わせて観察すると、旅行ガイドで紹介されていない魅力を見つけることもできる。講義の中盤では、指出さん自身が巡った、地域の隠れた魅力を紹介しつつ、「関係人口」というキーワードについて教えてくれました。

関係人口というキーワードは、ぼくも提唱している、「観光以上、移住未満」の新しい地域との関わり方です。それは、ぼくら自身が、『地域で自分の幸せを見つけること』につながる旅のようなものなんですね。

ただ訪れるのではなく、地域で幸せも感じていく、という関係人口とは? 具体的に、どのようなスタイルで地域に入ってみることなのでしょう。

地域の自然だけでなく、土地の人と仲良くなる。すると、新しい経験と出会える可能性は高まります。例えば、不思議とその地域が豊かになっていく様子を、土地の人と一緒に経験できたりするんです。

実際に、奈良県の下北山村という地域では、旅をきっかけに訪れた人が地域の人と仲良くなっていった結果、村にゲストハウスやコワーキングスペースを備えるようになったそう。今では中長期の滞在者や仕事をする人まで現れていると言います。

地域と人に笑顔を増やす旅をしよう

下北山村のように、地域が変わっていく様子に関わってみると、ただの旅とは異なる、別の関わり方をしたいという気持ちも芽生えていきますよ。

具体例として、奈良県の天川村で起こった、スナックミルキーを紹介してくれました。スナックミルキーとは、愛知県名古屋市から訪れた女性ふたりがはじめた、スナックイベントの名前です。

彼女たちは、地域の人に向けて、スナックをはじめました。そこに最初に訪れたのは、地域の区長さん。『一体、どんなことをするんだろう』と、興味津々で訪れた区長さんも、すぐにそのおもしろさを経験することができたんですね。

旅をした人自身が、地域の人を喜ばせる側に回る。それが関係人口のひとつの魅力です。区長さんや天川村のみなさんが経験したおもしろさは、旅人から関係人口に変わっていく魅力の具体例になっていました。

名古屋から来たふたりは、名古屋に縁のある、おつまみやお酒を振る舞いました。そこに地域の人が集まり出して。たまたま、その日が彼女の誕生日だったカップルの旅行者もスナックミルキーを訪ねてくれて、急遽、お祝いすることになったけれど、肝心のケーキがない。だから、代わりに地元のおいしい豆腐を用意して、ロウソクを立てて、みんなで祝福したんです。

そのとき、この場所には名古屋のふたり、天川村の人々、旅行で訪れたカップル、という新しい出会いが生まれていました。それは、まったく知らない経験をつくってしまう、という旅の新しい形だとも思うんです。

地域と暮らしは多層で味わう

旅の魅力について、指出さんに教わった後は、参加者による質疑応答の時間。その後、交流会の合間に、参加者のみなさんが旅してみたい地域や経験したい旅のスタイルを、指出さんと話す一時も迎えました。

参加者のみなさんは、事前に地域や旅のスタイルをシールに書いて、胸に貼っています。指出さんはマイク片手に参加者のそばに歩み寄り、そっと話しかけていきます。ある参加者の方は、「佐賀」という地域を挙げてくれました。

ぼくは佐賀だと肥前山口のあたりの風景が好きですね。この地域は、佐賀市内から西に向かうとある、綺麗な田園地帯です。すごくオススメですよ。ぜひ楽しんでみてくださいね。

また、ある参加者の方は、「何もしないを満喫する旅」と書いてくれました。

それが一番いい旅ですよ。休みって、本当は何もしないことですよね。ぼく自身も、朝から晩まで何かをしようとすることはない旅をしています。移動している間に、何かに想いを留めてみるだけで、旅は満喫できますよね。

講義の最後では、CLASS ROOM恒例の質問にも答えてもらいました。指出さんにとって、「良い暮らし」とは何でしょうか?

多層的な拠点を持つ暮らしだと思います。すでにみなさん、SNSでは同時にいくつものやり取りをしながら生きていますよね? それと同じように、地域ともやわらかく多層に関わっていく暮らしはオススメです。魅力を感じる地域やその地域の人々との出会いが増えていくと、生き方の選択肢が広がり、安心につながると思います。

>>交流会の様子はこちら

指出一正(『月刊ソトコト』編集長)

1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現『ソトコト』編集長。ロハス発祥の地と言われる、アメリカ・コロラド州ボールダーや、アフリカ、アイスランド、中国の現地取材を担当。趣味はフライフィッシング。民俗学や手仕事の分野にも興味があり、両方の要素から東北に惹かれ、出かけることが多い。昔の日本人に通じるひとつの村の暮らしぶりが見える地域も好きで、日本中のさまざまな地域を旅している。

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