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インスピレーションは葉山の自然から。食を楽しみ、日々をゆったり過ごすための器

2021.08.25

CLASS ROOMは、ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
2021年8月講座は、「ucacoceramics」というブランド名で陶器のデザインと製作を行っている田中優佳子さんをゲストに迎えました。東京から神奈川・葉山へと移り住み、さらにアパレル業界から陶芸の世界へ飛び込んだ田中さん。ずっと大事にしているのは、「自分がほしい器を作ること」だといいます。器作りのこだわりや、ご自身の暮らしと器について伺いました。

>> インタビューを動画で見る:前編後編

和食がおいしく見える器を作りたくて、陶芸教室へ

―陶芸を始めたきっかけを教えてください。

もともと自炊が好きで、自宅では自分の作った料理をお気に入りの白い青磁の器に盛り付けていました。ところが、その器だと和食がおいしそうに見えないなと感じるようになったんです。そこで、雑貨屋さんで和食器を買って盛り付けてみたら、途端においしそうに見えて。それから気に入る和食器を探し始めたのですが、理想とぴったり合うものがなかなか見つけられず、「じゃあ自分で作ろうかな」と考えたのが始まりです。

2007年、当時住んでいた下北沢の陶芸教室に、1日レッスンを受けに行きました。私はまったく知識がなかったので、作ったらその日に持ち帰れると思っていたんですね。でもレッスンが進むうち、「あれ? 今日は持って帰れなさそうだな……」と気づいて(笑)。色も、自分の好きな配色にしたいと先生に言ったら「練習が必要だから何度か通わないとできないよ」ということだったので、思い切って正式に入会することにしました。

そのときはアパレルの会社員だったので、“家の食器棚にある器を全部、自分で作ったものに入れ替えられたらやめる”ことを目標に、趣味として1年ほど続けたいなと思っていたんです。でも1年後には、夢中になりすぎてやめられなくなっていました。

会社を辞めて陶芸だけに絞ったのは、3年半前に病気にかかったことがきっかけです。いろいろ考えた結果、どうしても続けたくて一番やりたかったことが陶芸でした。


―この工房があるのは藤沢エリアの鵠沼で、海がすぐ近くにある素敵な場所です。ご自宅は葉山だと伺いましたが、いつごろ移住されたのでしょうか?

2014年に引っ越してきました。最後に会社員として勤めていたのがアウトドアウェアのブランドで、そのときスキーに行ったり、山登りをしたり、キャンプしたりと、アウトドアの遊びをたくさん経験しまして。加えて、友だちにこのあたりの海沿いに住んでいる人が多かったので、夏にはよく遊びに来ていました。それで住みたいなと思っていたら、賃貸の更新のタイミングがきたので、なんとなく移り住んだという流れです(笑)。

生活を大きく変えると大変なこともある一方で、新しく気づくこともありました。たとえば、都内に住んでいたときはそれほど空を見ていなかったし、いつも時計を見て時間は気にしているのに、日の出や日の入りの時間などは全然気にしていませんでした。でも葉山に越してからは、空を見るようになったり、時間や季節ごとの景色の変化をすごく意識するようになりましたね。

田中さんが撮った、葉山の海岸から見える夕陽。

相反するイメージを、ひとつの器のなかに表現したい

―器作りへのコンセプトやこだわりを聞かせてください。

最初に器を作り始めた目的が「自分の料理を盛り付けること」だったこともあり、器はお料理が載ってこそ完成すると思っています。今でも自分がほしいものを作っているので、食生活やライフスタイルに変化があるとほしいものが変わり、それが新作を作るきっかけになる。だから「こういう器がほしい」という気持ちをすごく大事にしています。

こだわりのひとつは、薄く作ること。洗い物をするときに器が重いと疲れてしまうので、一見重そうな和食器も、実は薄く、軽くなるように作っています。そんなふうに「重そうに見えて軽い」「繊細なようでしっかりしている」など、相反するニュアンスを器の中に表現できたらいいなと思っています。


―生活者の目線を取り入れつつ、自分が「こういうものがあればいいな」と思うものをずっと作り続けているのですね。いくつかシリーズがあるかと思いますが、ご紹介いただけますか?

「Tea & Coffee Cup」は一番長く作っているシリーズです。飴色のコーヒーカップで、中を乳白色にしているのは、飲み物の色がきれいに見えるほうがおいしそうに感じるから。紅茶やハーブティー、コーヒーの味を感じやすいように、飲み口はすごく薄くしています。

「Sunset Beach」は、葉山に来てから作り始めたシリーズです。私、引っ越してきた8年前からずっと、休日に晴れたときは必ず海に行くようにしているんです。いつもコーヒーをボトルに詰めて持って行き、“サンセットコーヒー”をしているんですが、そのときに見る夕陽の色がすごくきれいなんです。そこからインスピレーションを得て、海の色と夕焼け空の色をイメージしたこのシリーズができました。


―作品は暮らしている場所にも影響を受けるんですね。

はい、そういうケースが多いです。ほかにも砂浜の色と海の色をイメージした配色にしたり、夜空のグラデーションのような黒い器を作ったこともあります。葉山に来てからは、特に自然の色に影響を受けていますね。

そして今メインで作っているのが「série habiller」シリーズ(おめかしシリーズ)です。ucacoceramicsの定番商品にしたいと思って作った器で、縁に金彩(金液などで線や絵を描く技法)を施しています。フォルムがピシッと整ったようなよそゆきな雰囲気のものではなく、もう少しカジュアルなものを目指しました。

初めは白のみだったのですが、その後、チャコールグレー、ピンク、黒、グレージュと増えていきました。形もだんだん増えてきたのは、アサイーボウルを食べるようになったのでボウル型を作ったりと、自分の食生活の変化の影響もあります。
金彩を施しているので、食卓に置くと華やかになりますが、ゆるりとしたフォルムで肩肘張らず普段使いしやすいので、私も自宅でほぼ毎日使っています。


―縁の部分が、カチッとしすぎず柔らかい線になっているのが印象的です。ろくろを使わず手で成型しているからでしょうか?

そうなんです。板状の粘土を手で成型する“タタラ作り”で作っていて、縁の部分はあえて揃えすぎず、波打っているようなラインにしています。私はピシッとしている感じと、ゆるりとしている感じの両方のニュアンスを持ち合わせているものが好きで……洋服屋さんで働いていたときも、古着のジーンズに細番手(細い糸)のきれいなブロードのシャツを合わせたりする、“ラフだけどちょっとだけおめかし”というようなコーディネートが好きでした。

(上段左)「Tea & Coffee Cup」シリーズ、(上段右)「Sunset Beach」シリーズ、(下段)「série habiller」シリーズ。

使いたい食材に合わせて器を選んでみる

―作家ものの器を購入することは、初心者だと敷居が高く感じることもあると思います。作家ものの器を選ぶときのポイントはありますか?

直感的に好きなものを選ぶのももちろんいいのですが、食生活や暮らしが変わると使う食器も変わるので、気持ちや生活スタイルのちょっとした変化に意識を向けると器選びが楽しくなるのではないかと思います。たとえば「今の季節はこんな食材を使いたいから、こういう色の器が合うかな」とか、「最近よくこのお料理を作るから、この形の器にしよう」というように、お料理から発想するのもいいと思いますし、反対に、ひと目惚れした器をひとつ買って、それに合うお料理を頑張っておいしく作るというのでもいいと思います。


―お気に入りの器があるときれいに盛り付けたくなりますよね。お手入れの面でポイントはありますか?

金彩を施している器は、電子レンジと食洗機は使わず手で洗ってくださいとお伝えするようにしています。それから、お皿の裏面は釉薬がかかってないので、濡れたまま置いてしまったりするとカビやすくなります。立てかけて、すぐに乾かすようにしていただくといいですね。購入してすぐに、お米のとぎ汁や小麦粉を溶かしたぬるま湯につけて“目止め”をすると丈夫になって長持ちするので、それもおすすめしています。

時間を丁寧に過ごすことで、優しい気持ちになれる

―金色のつなぎ目がある器もありますね。

これは、割れてしまったお皿を金継ぎしたものです。特に初期のころの作品はすごく薄く欠けやすかったのですが、使い続けたくて4年ほど前に金継ぎを始めました。本漆を使う伝統的な方法で直しているものもあれば、樹脂系の素材を使う“モダン金継ぎ”で修繕しているものもありますね。割れてパーツがなくなってしまったところにガラスを埋め込むこともできるんですよ。


―割れたり、欠けてしまったら捨てるのではなく、その後も長く使えるようにするのが金継ぎなんですね。

それが金継ぎのすごくいいところですよね。私が開いている金継ぎのワークショップに参加してくださるみなさんも、壊れてあきらめていた器がまた違う形でよみがえるとすごくうれしそうなんです。「金継ぎで本当に自分のものになったようでうれしい」と言ってくださるので私も楽しくなります。


―器を楽しむことは、日々の暮らしをどのように豊かにしてくれると思いますか?

割れ物で取り扱いが心配な方もいらっしゃると思うのですが、「ちょっと繊細かな」「取り扱いに気をつけなきゃな」と思うものを使うことの恩恵もあると思います。たとえば洗い物も雑にこなさず、一つひとつの器を慎重に洗うようになる。みなさん忙しいので、合理的にできるほうがいいのはすごくわかるのですが、そういうときこそちょっとした手間を生活のさまざまなシーンに入れていくことで、時間がゆったりと感じられることがあります。

洗い物の時間は、1日の中で本当にわずかな時間です。でもその時間を丁寧に使うことで、優しい気持ちになるというか……「この器で食べたお料理、おいしかったな」と考えながら、ひとつずつ洗って乾かす、そういう時間がいいなと思います。


―最後の質問です。田中さんにとってよい暮らしとはなんでしょうか?

“穏やかに笑っていられる生活”でしょうか。暮らしのなかに、ゆったり穏やかな気持ちになれる景色や空気感がある。葉山に来てから、日々感じていることです。

田中優佳子さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『ミドリ薬品漢方堂のまいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』著:櫻井大典(ナツメ社)
「季節ごとの養生や気になる症状の対処法が1日1テーマで紹介されているので、なに気なく読むのも面白く、体調に変化が見られたときなどは、該当する日やその前後のページを見て、自分の身体に起こる不調の原因を探る辞書のような感じで使っています」


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<プロフィール>

田中優佳子(陶器デザイン/製作)
京都出身、葉山在住。「ucacoceramics」名義で活動。和食にも洋食にも合う普段使いの陶器を薄造りで製作。日々の暮らしなどからインスピレーションを受け、手や口に触れるときの感覚を意識して作陶している。器と食事をトータルで楽しむのが好き。
https://ucacoceramics.com/


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