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大切なものを逃さないために、手放す勇気を。自然と向き合う仕事で見つけた自分らしさ

2022.01.26

CLASS ROOMは、ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
2022年1月講座のゲストはクリエイティブディレクターの木本梨絵さん。自然環境における不動産開発「DAICHI」など、さまざまなプロジェクトのアートディレクション、コピーライティングを行う木本さんに、クリエイティブの源やお仕事との向き合い方について聞きました。

>> インタビューを動画で見る:前編後編

地域の魅力を引き出す「ネイチャーデベロップメント」

―木本さんはデザインにまつわるお仕事をされています。最近はどのようなプロジェクトを手がけたのですか?

食品のブランディングをしたり、ホテルのプランニングをしたりと、いろいろなことをさせていただいています。なかでも最近力を入れているのは、自然と対峙するようなお仕事。たとえば、自然豊かな環境での宿泊や商業などを企画開発・運営する会社「DAICHI」。自らもメンバーとして活動しているこの会社では、今までは特段目を向けられていなかった自然環境に少しの手を加えることで、そこにある魅力を最大限に引き出し、地域を活性化させる「ネイチャーデベロップメント」という事業を行っています。


―具体的にはどのようなことをされているのですか?

川辺にキャンプ場をつくったり、自然のなかで入れるサウナ室を建てたりしています。今後は“キャンプ以上、別荘未満”の、能動的に自然と関われるようなラグジュアリーな宿泊施設を展開していく予定です。

そしてもうひとつ、最近「日本草木研究所」という会社を立ち上げました。こちらでは日本の里山を駆け巡って自生するハーブやスパイスを収穫し、それらを使った商品づくりを行っています。
 

巡りゆく自然に魅せられて

―自然に関心を向けるようになったのはなぜでしょうか?

私のアイデンティティは、生まれてから18年間暮らした和歌山の自然のなかで形成されました。当時は田舎が嫌で嫌で仕方なかったのですが、上京して10年以上が経ち、ようやくその魅力に気づけるようになりました。自然のなかに身を置くと心が豊かになるんですよね。だんだんと自然の魅力を再発信できるようなお仕事にも携わりたいと考えるようになりました。


―木本さんの仕事場であるこの空間も自然に囲まれていますね。自然と対峙するお仕事をされるようになってから、自然の捉え方について変化はありましたか?

もともと植物が大好きなので、ここに引っ越す前のオフィスにも観葉植物などの緑をたくさん置いていました。でもあるとき、ふと違和感のようなものを感じたんです。人間のコントロール下にある植物は、本当に自然と呼べるのかなと。

そこで、自然の移り変わりを感じられるような場所に移りたいと思い、見つけたのがこの場所です。目の前には公園が広がっていて、ダイレクトに自然を感じられる。鈴虫の鳴き声で秋の訪れを予感したり、木の葉が落ちて公園全体が見渡せるようになったことで冬を実感したりと、観葉植物からは感じ取れない季節の変化に気づけるんです。

家のなかに植物を置くのももちろん素敵ですが、巡りゆく自然のなかで季節の往来を感じたり、日本草木研究所の活動で実際に山に入ったりすることで、自然は自分では到底コントロールできない、尊いものだという認識に変わりました。

季節によって表情を変える木本さんの仕事場。

人の声に耳を傾け、迷ったら立ち止まる勇気を持つ

―さまざまな活動をするなかで大切していることはありますか?

人の話を丁寧に聞くことです。弊社の会社名「HARKEN」は、「耳を傾ける」という意味を持つ英語をもとに名付けました。デザインをしているとつい自分のエゴを押し出してしまう瞬間がありますが、なにか問題が起きたとき、その答えは私自身ではなく、クライアントさんのなかにあるはず。だからクライアントさんへのヒアリングを通してその答えを自分のなかに落とし込み、濾過し、言語化していくことを大切にしています。


―耳を傾けることを大切にしようと思ったきっかけはありますか?

独立前に勤めていた会社の代表に「世の中には、声をかける人、声をかけられる人、声をかけない・かけられない人の3種類の人間がいる」と教えていただいたことが大きいかもしれません。“声をかける人”であり続けることも大切ですが、私はこのお話を聞いて、“声をかけられる人”のスペシャリストになりたいと思いました。

というのも、私はやりたいことが次々に生まれるタイプではなく、おもしろいことが湧き上がってくる人に声をかけていただいて一緒に取り組むほうが向いているタイプ。昔はゼロからなにかを生み出す側ではないことにコンプレックスを感じていましたが、自分の特性に反して無理やり行うのでなく、声をかけていただいて仕事をするのが心地いいのであれば、それを一生懸命やればいいというスタンスにいつしか変わりました。


―ものづくりをするうえでは取捨選択が重要かと思いますが、ものごとを選ぶときの基準はありますか?

お仕事やチャンスをいただいたとき、すぐに「やります」と言いたいところを、一度立ち止まって本当にやりたいかどうかを考えるようにしています。以前は「進み続けなければいけない」という呪いのようなものに囚われて頑張りすぎてしまうことが多かったのですが、勇気を出して立ち止まるようになってからは、選択をきちんと精査できるようになりました。

自然のなかで自分と対話して出会う、新しい発見と気づき

―忙しく過ごされる日々のなかで自分らしさを意識することはありますか?

自分と向き合う時間を意識的につくるために、仕事場の向かいにある公園を毎朝散歩しています。あえて音楽を聴いたりもせず、同じリズムでただただ歩いていると、デスクで思考を巡らせるだけでは浮かばないような思考が湧き上がる瞬間がたくさんあるんです。「こないだは私らしくないことしちゃったな」「本当は私ってこういうことが好きなのかも」と直近の行動とも向き合えるので、新しい自分への気づきにもつながっています。


―お仕事が日常生活に影響を与えることはありますか?

1年くらい前からホテルのブランディングのお仕事をさせていただいていて、いま自分のなかで旅がすごく特別な存在になっています。ホテルに宿泊したとき、アメニティや空間、食事などの細部まで目がいくようになりました。そんなふうに、仕事で見たものに対して視点が増えていく感覚がすごく楽しいんです。いままで気づけなかった景色を見られることは、仕事と暮らしが溶け合っていくようでなんだかうれしい。日常に対する解像度が格段に上がっていっていると思います。


―反対に日常生活がお仕事に影響を与えることはありますか?

ものごとを多角的に見られるようになったことが、アイデアの創出に役立っている気がします。たとえば、公園でかわいらしい丸い石を見つけたら、どうして丸い=かわいいと思ったのかなと考えたり。常に問いと答えを繰り返すことが、頭を柔らかくしたり、着想のヒントになったりしているのではないでしょうか。

仕事でものごとを捉える視点が増え、視点が増えることで日常での気づきが増える。まるで反復横跳びのようですが、この相互作用がとても心地よく感じます。


―最後に、木本さんにとってよい暮らしとはなんでしょう?

“片手が空いている暮らし”だと思います。いまはネットやSNSで情報が常に流れてくる時代なので「あれもこれもしたい」と欲張りになってしまいがちですよね。私もそのタイプなのですが、気づけば両手がいっぱいになっていて身動きが取れないことがよくあるんです。両手がいっぱいだとなにかチャンスが来たときにうまく掴みにいくことができませんが、片手が空いていれば受け止められる可能性がある。多くのものを持ちすぎず、意識的に“余白”をつくることを心がけていきたいです。

木本さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『たとへば君 四十年の恋歌』著:河野裕子、永田和宏(文藝春秋)
「歌を通じて出会った歌人の夫婦が、妻が亡くなるまでの40年もの間に詠み合った380首の相聞歌が収録された壮大な恋文。『人は内側から齢をとるのではなく、外側から齢をとるのではないだろうか。』妻である河野裕子さんが平成元年に書いたこの言葉に、思わず立ち止まってしまいました。それほど大切で静かなあれこれに気づかされる美しい本です」


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<プロフィール>

木本梨絵(クリエイティブディレクター)
1992年生まれ。株式会社HARKEN代表。日本草木研究所 共同代表。武蔵野美術大学非常勤講師。業態開発やイベント、ブランドの企画、アートディレクション、デザインを行う。担当している主なプロジェクトに、入場料のある本屋「文喫六本木」、テクノロジーであたらしい暮らしを実現する「NOT A HOTEL」、自然環境における不動産開発「DAICHI」など。グッドデザイン賞、iF Design Award、日本タイポグラフィ年鑑等受賞。
https://harkenic.com/
https://linktr.ee/riekimoto_harken

>> インタビューを動画で見る:前編後編

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