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サステナブルな行動は、まずは興味を持つことから

2022.03.29

サステナブルやエシカルという言葉が私たちの日常にも定着している今。2022年2月19日(土)に開催されたオンラインイベントに登壇したエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗さんに、サステナブルへの考え方やヒント、ご自身の活動についてうかがいました。

>> #わたしと未来のつなぎ方 オンラインイベント
「見つけた!私の新しい『選び方』 ショッピングからはじめる私のサステナブル」の記事はこちら

鎌田さんが主宰するオンラインサロン「Little Life Lab」。ワークショップを行ったり、洗剤やはぶらしなどの日用品の使い比べなど、メンバーと一緒に考えることを大切にしています。

サステナブルな行動を日常のオプションにしない

今はこれだけものがあふれている時代ですから、気をつけていないと、あまり好きではないものまで自分の家にたくさん入ってきてしまうと思います。みなさんも経験があるのではないでしょうか、安いからとつい買ってしまったまあまあ着られそうな服だったり、ノベルティアイテムだったり……。

そうしたものに囲まれていても、いま一つ気分が上がらないですよね。以前の私もそうでしたが、服はたくさん持っているのに着たいものがなくて。クローゼットにぎゅうぎゅうに詰め込まれているから取り出したらシワだらけで、さらにテンションが下がってしまうということもよくありました。

本当に好きだと思っているなら、毎日同じ服を着ていたとしても、きっと自分にとって大切なものとして扱うはず。家にあるものに心から満足している状態は、幸せなことだと思うのです。私自身、今でも完璧な状態を維持できているわけではありませんし、まだまだ途上ですけれど。

2022年2月に行われたオンラインイベントの様子。

もう一つ、私が普段から意識していることがあります。それは、サステナブルな行動について、自分の生活に取り入れるか否かというオプションのように取り扱わないようにすることです。自分が食べているものや着ているもの、使っている日用品も、何かしらの問題につながっている可能性がありますし、逆に良い方向につながっている可能性もあります。自分の生活の中でどちらの割合を増やしていくかということなので、生活の外側にある話ではないということを、常に意識していたいと思っています。

まずは日常的に使っているものや購入しているものの中で、興味のあることを深堀りしてみることが大切なのではないでしょうか。服が好きな人なら、服はどうやってできるのか、ファッション産業にはどのような課題があるのか。コスメだったら原材料を調べたり、食なら生産地や農薬のことを調べてみたり。自分の生活と地続きのところにどういう問題があるのか、それに対して自分は何ができるかを考えてみるといったように、興味を持つことから始まることがあるはずです。

オンラインイベントにて、ukaの渡邉弘幸さんと。

スタンスに共感できる「気の合う」ブランドや企業を応援する

2月に登壇したサステナブルをテーマとしたオンラインイベントでご一緒させていただいたukaの渡邉弘幸さんが、参加者の方からのukaのプラスチックボトルに関する質問に「この場ではすぐに分からないのですが、必ず調べてお伝えします」とおっしゃっていたことがとても印象に残っています。

渡邉さんの真摯な姿勢を間近にして、わからないということを素直に伝え、それを自社の課題として認識することは企業への信頼に結び付いていくと感じましたし、そうした企業からものを買うことは、応援にもつながるはずです。

個人のアクションでも、企業の取り組みでも、何も問題がないという完璧な状態は、そもそもないと思っていて。企業のサステナビリティに関する取り組みも、できていることは伝えるけれど、まだできていない部分をオープンにすることは、ハードルが高いということは理解できます。でも、ものを生み出したり、提供したりする人が、どのようなスタンスを取るかで、もののその後の運命はほぼ決まると思うのです。

サステナブルについて考えるとき、もののつくり手側の意識が変わることも大切だと感じていて、2021年にスタートした「FASHION FRONTIER PROGRAM」というクリエイターを志している人を対象としたプログラムに携わっています。これは環境や社会問題などに関する学びを受けられる機会をつくり、それを踏まえて生まれたクリエイションを評価するというものです。

前回はファッションがバックグラウンドの方だけでなく、グラフィックデザイナーの方や高校生の方からも応募がありました。今、ものづくりにかかわっていて、環境のこと、社会への理解を深めたい方には、ぜひ挑戦してもらえたらと思っています。

「FASHION FRONTIER PROGRAM」ファイナリスト8名の作品は、2021年12月、国立新美術館に展示されました。

「自分ごと」にして、これからも学び続けていく

服の成り立ちを知るきっかけとして立ち上げたプロジェクト「服のたね」は、2022年で4年目を迎えました。参加者の方にコットンの種をお送りしてそれぞれで育ててもらい、収穫した綿を集めて糸をつくり、生地にして、服をつくるという企画です。これまでにシャツやスウェット、靴下をつくってきて、今年はスニーカーをつくる予定です。

コットンは種から植えて収穫までに半年以上かかりますが、育てていると、虫が寄って来たりもします。けれど、そこで殺虫剤を撒いてしまうと、オーガニックコットンにはなりません。また、例えば靴下は、数百円で買えてしまいますが、コットンを収穫して、そこから糸や生地をつくり、製品が出来上がるまでには、さらに1年ほどの時間が必要です。実際につくる側の体験をしてみることで、当たり前にあると思っていたものの捉え方が変わり、もしかしたら、これからの買い物やものの捨て方も変わるかもしれない。そんなふうに感じています。

「服のたね」で収穫したコットン。

サステナブルやエシカルへの人々の意識はかなり高まっていますが、もしかしたら、知れば知るほどに迷ってしまうことがあるかもしれません。「こちらが正しい」「いえ、こちらこそが正しい」といったように、多種多様な情報が出回っていますから、矛盾を感じることもたくさんあると思います。私は正解を知っているわけではありませんし、この先も、誰にも正解は出せないのかもしれません。それでもあきらめず、多くの人と一緒に考えていくことを続けていきたいです。

また、法律や制度が変わらない限り、どうにもならない領域があることも事実です。私自身、効力感と無力感のどちらも感じているというのが正直なところですが、自分の暮らしが組み込まれているシステムはどういったものなのか、勉強してみることも必要だと思っています。勉強しながら、組み込まれているシステムに少しでもおかしいと感じるところがあれば、できることから行動を起こしてみる。自分一人の力では変わらないかもしれないけれど、みんなで少しずつ押し広げていくことで、変化がもたらされるのではないかと思っています。


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<プロフィール>

鎌田安里紗(unisteps共同代表)
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unisteps共同代表。衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開し、種から綿を育てて服をつくるプロジェクト「服のたね」、衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」などを主宰。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。

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