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CLASS ROOM

「好き」と「楽しい」を追求して暮らしを豊かに。人とつながることで見つかる新しい自分

2022.04.27

ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール「CLASS ROOM」。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
2022年4月のゲストは、刺繍作家の小菅くみさん。人物や動物の姿形だけでなく、表情までも刺繍で繊細に表現する小菅さんに、アイデアの見つけ方や、好きなことに向き合うことで日常に起こる変化などを聞きました。

>> インタビューを動画で見る:前編後編

思わず笑みがこぼれる刺繍作品を

―小菅さんが刺繍を始めたきっかけを教えてください。

幼い頃からものづくりが大好きで、祖母が油絵を描いたり、お人形を作ったり、刺繍をしているのを隣で見ていました。その影響もあって私も将来はものづくりをする人になりたいと思っていたんです。

刺繍を始める一番のきっかけになったのは、20歳くらいの時に難病を罹ったこと。入院中に、刺繍なら布や糸、針、ハサミさえあればできると思って、刺繍していた祖母を見よう見まねでコツコツと縫い始めたんです。それが仕事になるまではだいぶ時間がかかりましたが、友人や家族がアシストしてくれたおかげで徐々に仕事になっていきました。


―刺繍作品をつくるうえで大切にされていることはありますか?

かわいくてしおらしい乙女な雰囲気の刺繍作品は多くありますが、私はユーモアを大切にしています。見てくださる方が思わず笑顔になるような作品をつくるのは、自分で縫っていても楽しいです。

今は、子供番組用のごはんをモチーフにした刺繍を制作しています。おいしさが伝わるような立体感を創出し、見るだけでも楽しくなれるような刺繍にできたらと思っています。


―小菅さんのアイデアの着想は、日常からヒントを得ているのでしょうか?

そうですね。もともとおしゃべりが好きなのですが友人や家族との会話は、作品のアイデアにつながるいい刺激になります。おもしろい展示や映画の情報を共有してくれたらすぐに見に行って、次の日にはそこで得たアイデアを元に刺繍を縫い始めることも多いです。友達や家族など外から受ける影響や刺激が作品づくりにいきてくるので、常にアンテナは張るように心がけています。


―刺繍糸の色選びはどうされているんですか?

絵の具を選ぶように、刺繍糸を揃えてから縫い始めます。例えば緑色にもさまざまな色があるので、パレットに出すような感覚で並べてみて使う刺繍糸を決めてから、一つの作品を縫っていくんです。


―なるほど。小菅さんの作品は色使いもそうですが、陰影の付け方などがまるで絵画のようでとても素敵です。もともと、絵を描かれていたんですか?

幼い頃から絵を描くことも大好きでした。母に「ペンと紙さえあれば、どこでも大人しくしている子だった」と言われているくらいです(笑)。お絵描きが好きというのは、刺繍制作における色使いや陰影の付け方などに、役立っているかもしれません。

思い立ったら即行動。新たな刺激がアイデアのヒントに

―最近、刺激を受けたものはありますか?

友人に教えてもらった展示で出会った木彫り作品です。これを見た瞬間、自分でも木彫りに挑戦したいと思って。その日のうちにホームセンターで道具を揃えて、木彫りを始めることにしました。私はやりたいと思ったら即行動するタイプなので、そういうひらめきのようなものは作品づくりに生かされているかなと思います。


―小菅さんは何かを始めたいと思ったとき、誰かに習うのではなく、独学で始めるのですね。

刺繍もそうですが、独学が多いですね。木彫りの場合、最初は動画やマニュアルを参考にしていましたが、木の質や硬さによって個体差があるから、その通りにいかないと気づいて。自分で手を動かしてコツを掴んでいくのがおもしろいんですよね。ただ、家の中が木のくずだらけになってしまうので、家族には迷惑がられています(笑)。


―そうなんですね。あと、最近ではサウナにもハマっているそうですね。

6〜7年前からサウナにハマっています。そのきっかけを与えてくれたのも友人でした。当時の私は今とは違って、かなりマイナス思考で落ち込みやすくて。そんな私にその友人が「モヤモヤした気持ちが晴れるから」と、サウナに連れ出してくれたんです。そして実際にサウナに入ってみたら、スマホやネットの情報から離れられるからか、前向きなマインドになれたんです。「みんな頑張っているから自分も頑張らなきゃ」という気持ちがやわらいで、「まぁ、いいか」と何事も受け止められるように変わりました。


―サウナに入っている時間は何を考えるんですか?

何も考えないことが多いですが、仕事の思考をめぐらせると、いいアイデアが浮かぶこともあります。アイデアが思いついた時は脱衣所まで、すぐにメモを取りにいきます。周囲の人からは何やっているんだろうと思われているかもしれません(笑)。ですが、サウナのような静かな場所に身を置くと生活空間から離れられるので、いいリラックス時間になっていると思います。


―小菅さんは好きなもの・ことに一直線なんですね。やりたいことが多いと、時間が足りなくなりそうですね。

そうなんです、昔からやりたいことが多くて、いつも時間が足りないと感じていました。そんなこともあって、時間を上手に使うための工夫をしているんです。それこそ、打ち合わせと打ち合わせの間にサウナに行ったりして。削れるところは削って、上手にスケジュールを組み立てるようにしています。

明るい色をまとうことで、気分を軽やかに

―身につけるものへのこだわりはありますか?

身につけるものは、なるべく明るい色味のものを選ぶようにしています。春ならピンク、夏ならイエローというように、ファッションも季節に合わせてコーディネートすることが多いです。明るい色味のものを身にまとうと、気分が明るくなって前向きになれるような気がします。


―最近のお気に入りのアイテムは?

今身につけているピアスがお気に入りです。友人が生花で作った作品なのですが、こういうかわいいものを見つけるのがすごく楽しいんです。


―ご自身が身につけるものには、刺繍作家ならではの視点が入っていそうですね。

そうかもしれません。もともと手刺繍のアイテムには憧れがあったのですが、ワンピースなどは高価で手の届かないものも多いんです。自分が刺繍作家として活動を始めてから、比較的手の届きやすい刺繍小物をコーディネートに加えるだけで、差し色になってかわいいと気づきました。刺繍を通して学んだ色彩感覚が、今自分のファッションにも生かされているような気がします。

情報のプレゼント交換で、日常に“楽しい”を増やしていく

―仕事やファッションもそうですが、小菅さんは自分の“好き”を見つけるのがお上手だと感じました。情報があふれる世の中で、そういった好きなものに出会うコツはありますか?

フットワークを軽くしておくことでしょうか。例えば街を歩くと、ふと自分の好きなものに出会えたり、いく先々で出会った人に別のお店などをおすすめしていただいたりと、素敵な出会いに恵まれると思います。そこで出会った人と会話することで新しい発見もありますし、それが刺激になって創作活動にもつながっていきます。


―人とのコミュニケーションを大切にすると、いろいろな素敵な出会いに恵まれる、ということですね。

SNSやネットで情報が入手しやすい時代だからこそ、直接人からもらう情報は大切にしたいんです。実際に人と会って話をすると、「そういえば、おいしいお菓子屋さん見つけたんだよ」などと、何気ない会話から素敵な情報がぽろっと出ることが多いんです。さらに、それを聞いたら自分も「あ、そういえば私も…」と相手が少し幸せを感じられるような情報を伝えたくなるんですよね。情報のプレゼントをお互いに交換し合うことで、“楽しい”が少しずつ増えていくと感じています。


―そうして人生に楽しいもの、好きなものが増えていくと、日常はどのように変わっていくと思いますか?

難病にかかったとき、親戚に「笑っていれば、からだも元気になる」と言われて、実際に笑うことを意識したらみるみる回復したんです。その時から、日常に“楽しい”や“好き”を増やし、大切な人と過ごす時間は笑顔でいることを心がけています。そういう時間が持てるとゆとりができて、人のために何かしようと考えられるので、相手も自分も豊かにできると思います。


―最後に、小菅さんにとってのよい暮らしとは?

やはり大切な人たちと笑い合って、心穏やかにゆとりを持って生きることです。そして、そうした暮らしにするためには、行動力が必要だとも思っています。ゴロゴロして体を休めて過ごす休日もいいですが、「今日は晴れているから箱根に行ってみよう」と思い立って行動してみれば特別な1日に変わって、さらに暮らしは豊かになっていくと感じています。

小菅くみさんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『京都の中華』著:姜尚美(幻冬社文庫)
「この本で独自の文化を持つ京都の中華の歴史の背景を勉強してからお店に行くと、食事のありがたみや深みがよくわかって、より一層旅の食事が楽しくなります。地名の由来や古地図なども見ておくのも、旅はもちろん、普段の散歩が楽しくなるので大好きです」

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<プロフィール>

小菅くみ(刺繍作家)
東京都生まれ。刺繍ブランド〈EHEHE(エヘヘ)〉の刺繍を中心とした作品を製作する刺繍作家。人物や動物の繊細な表情までを刺繍で表現している。ほぼ日刊イトイ新聞の“感じるジャム”“おらがジャムりんご”シリーズでは、レシピ製作を担当。
https://www.instagram.com/kumikosuge/


>> インタビューを動画で見る:前編後編
 

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