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ユニークな手洗い機が水問題解決の糸口に。「WOTA」が目指す豊かな社会とは

2022.10.11

生活排水の98%以上を自動で再生処理する技術で、たとえ水道がない場所でも手洗いやシャワーが可能に――こんな画期的なシステムを開発し、今注目を集めている「WOTA」。世界中のあらゆるところで安全で衛生的な水を使えるようになる、そんな素晴らしい未来の可能性を秘めた同社の取り組みについて、CEOの前田瑶介さんに伺いました。

生活用水の98%以上を浄化して再生

手洗い、シャワー、飲用、洗濯やトイレなど、毎日の暮らしのなかで当たり前のように使っている水。でも視野を少し広げてみると、排水による環境汚染、人口増加や気候変動が招く水不足など、世界中の至るところで水問題が起こっている。ここ日本をはじめとする先進国も例外ではなく、近年は水不足が懸念されているほか、上下水道の管路老朽化、給水人口の減少による水財政赤字の拡大が各自治体にとって大きな負担となっているなど、危機的状況にある。

こうした水問題の抜本的な解決に挑むのが、2014年に東京大学出身のメンバーらが立ち上げたスタートアップ企業「WOTA」。彼らは、生活用水の98%以上を自動で再生処理できる小型機器「WOTA BOX」を2019年に販売開始。汚れた水をその場で浄化してまた使えるようにすることで、水道がない場所でもシャワーや手洗いといった水の利用が可能になるという、画期的な水循環システムだ。

WOTA株式会社の代表取締役 CEO、前田瑶介さんは1992年生まれ。東京大学在籍時から、給排水設備の開発やデジタルアートなどのセンサー・制御開発に従事。現在はCEOとして、水問題の構造的解決に挑む

2030年には世界人口の約4割が水不足に

現在、代表取締役 CEOを務める前田瑶介さんは徳島県出身。東京大学への進学を控えた2011年3月10日に上京し、その翌日、東日本大震災が発生。都市部のライフラインの脆弱さを痛感したという。

「子どもの頃、僕の住んでいた徳島の田舎のほうでは上下水道が普及していないのも珍しくないことでした。でも、誰も困っていなかった。なぜなら、地元の川や湧き水のことをみんなよく知っていて、飲み水にはここの湧き水、洗濯にはあの川の水がいいなど、天然の水資源を上手に活用していたんです」

ところが都市部では、ひとたび上下水道がストップすれば、ひたすら復旧か救助を待つしかない。仮に川が近くに流れていても活用の仕方がわからないし、都会のほとんどの人にはそもそも川の水を活用するという発想がない。これは、大規模な水道システムに依存してきた社会がもたらした弊害のひとつといえるだろう。

「また、世界人口が今のペースで増加すると、2030年には世界人口の約4割が水を安定的に利用できなくなるといわれています。ということは、現状の水道システムを世界の隅々にまで普及させたとしても、水問題は解決しないんです」

水不足を解消し、排水による環境汚染のリスクを最小化させ、そして災害時にも安全な水を供給できる。このような水問題の解決に挑んでいるのが「WOTA」なのだ。

水循環型手洗いスタンド「WOSH」は商業施設のほか病院やオフィスなど、全国のさまざまな施設に設置。こちらはニュウマン新宿1階のエントランス

被災地の避難所に快適なシャワーを

前述の「WOTA BOX」は、排水をろ過して繰り返し循環させることで、100リットルの水で約100回のシャワーが可能となるシステム。配管工事は不要で、電源さえあれば稼働でき、IoTセンサーと自律制御アルゴリズムの独自技術により、常に安全な水を再利用することができる。

「WOTA BOXは単体でも使えるほか、屋外シャワーキットを組み合わせれば、災害などで上下水道がストップしても、多くの方に手洗いやシャワーを利用していただけます。製品としての一般販売を開始したのは2019年11月ですが、実はそれ以前にも、2016年の熊本地震、2018年の西日本豪雨などの際に、被災地の避難所に試作機を運び込み、支援活動を行ってきました。これまでに災害現場でご利用いただいた人数は2万人を超えます」

また、2020年には世界初の水循環型手洗いスタンド「WOSH」を発表。白いドラム缶型の機器で、現在はニュウマン新宿をはじめとする商業施設や飲食店、オフィスなど、さまざまな場所に導入されているので、見たことがある人もきっと少なくないだろう。

「WOSHはもともと開発をしていた機器だったのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で手洗いのニーズが高まったことから、急ピッチで商品化を進めました。お店の入り口といった水道のない場所にも設置でき、水を入れて電源につなげば、あとはフィルターなどの消耗品を交換するだけで何度も繰り返し使用できます」

使用した水の98%以上を再生循環する「WOTA BOX」に「屋外シャワーキット」を組み合わせれば、上下水道が断水しても手洗いやシャワーが可能に。さまざまな被災地で入浴支援をしてきた 写真提供=WOTA

人にも地球にも優しい水循環システムを

そして、新たに開発が進んでいるのが、住宅から出るすべての生活排水をその住宅内で再生利用できるようにする水循環システム。こちらは現在、サステナブルな暮らしを目指す軽井沢の邸宅で実際に使用されている。この「小規模分散型水循環システム」さえあれば、例えば山奥といった上下水道がない地域にも人が住めるようになるし、現在、アジアやアフリカで生活に必要な水を汲みにいくのに往復何時間もかけなくてはならないような状況にある人たちの助けにもなる。もちろん先述の、将来的な世界規模の水不足からも人類を救う光となるだろう。

「上下水道の整備は都市開発の一部なので、その土地の骨格に影響を及ぼします。例えば、山を切り崩して道路と上下水道を整備するとなると、その土地のもつオリジナルな風景が失われてしまいます。でも、最小限の開発で基礎的なインフラを確保できれば、世界中のユニークな風景をそのまま留めることができる。僕たちの水循環システムは、水不足や水汚染の解決に加えて、文化的な点でも、人類の暮らしと地球の未来の両立に貢献できると考えています」

世界中のどんな場所にいても、環境を破壊することなく、安全な水にアクセスできる。WOTAの水循環システムが見せてくれる未来の風景は、きっと豊かで多様性に満ちているに違いない。

ポータブル手洗いスタンド「WOSH」はスマートフォン除菌機能つき。手を洗っている30秒間で、スマホの表面についた菌を99.9%以上除菌し、手洗い後の手を清潔に保ってくれる

■WOTA
https://wota.co.jp/

※本記事は2022年10月11日に『telling,』に掲載された記事を再編集しております。
※情報は記事公開時点のもので、変更になることがございます。

Text: Kaori Shimura Photograph: Ittetsu Matsuoka Edit: Sayuri Kobayashi

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