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苦手なものを「好き」に変えていく/夢眠ねむさんインタビュー 後編

2023.07.14

“ねむきゅん”こと夢眠ねむさんは、2019年に「でんぱ組.inc」を卒業し、芸能界からも引退しました。そのあとはじめたのは、「これからの本好きを育てる」ための小さな本屋。さらに、キャラクタープロデューサーや出版社など、さまざまな活動をしています。そんなねむさんのポリシーやライフスタイルに迫るインタビュー。後編では、ルミネのシーズンテーマ「Phygital Fantasy – 未知との遭遇」を切り口に、新しい世界と出会うことなどについて伺いました。

PROFILE
夢眠ねむ(ゆめみ・ねむ)/「夢眠書店」店主、キャラクタープロデューサー
三重県生まれ。多摩美術大学卒業。2009年にアイドルユニット「でんぱ組.inc」に加入し、アイドル活動のかたわら美術家、映像監督などとしても活躍。2019年にグループを卒業し、芸能界を引退。同年、東京・下北沢に「夢眠書店」をオープン。さらに「たぬきゅんフレンズ」のキャラクタープロデュースを行い、出版社「夢眠舎」も展開している。

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“複合職”だからこそ、できることがある

―書店店主やキャラクタープロデューサー、かつては美術家、アイドルなど、いろいろな顔を切り替えながら活動することは、ねむさん自身にどのような影響を与えていますか?

飽き性だから、たぶん、ひとつのことを突き詰めすぎると飽きちゃうんです。だからいまのようにいくつかの活動がある状態がほどよいんですよね。全部を飽きずに続けられているのは、いろいろなことをやっているからだと思います。本屋だけだったら、本が売れなかったりした途端「うーん、解散!」と見切りをつけてしまうと思うのですが、「いまは本が売れないけど、でも店をやっていればたぬきゅんのグッズも置けるし、姉のうどんも食べたいし」と欲張ってなんとか続けることができる。

アイドル時代から、しゃべるお仕事や執筆業もする“複合職”状態で、当時はそのことに悩んでいました。「さっきまで歌って踊ってたのに、次は真面目なラジオでコメントをしなきゃいけない」と泣いたこともあります。でも振り返ると、複合職だからこそできたことがあったと思うんです。夢眠書店に来る大学生の子たちもそうですが、ひとつの道を選ぶという状況で悩んでいる人が多い気がして。就活もあるのでしょうがないところもあるとは思うのですが、「なにかにならなきゃ! でもどうしたらいいかわからん!」と行き詰まっている人には、そんなことはないよと言いたい。いくつかの活動をかけもちするのは悪いことじゃなくて、全部真剣にやっていればいいと思います。

と言いつつ、ひとつのことに集中すればもっとやれるのにと思うこともあるんですけどね。もう少し器用にこなしたり、手伝ってくれる人を増やしたりと、いろいろ手はあると思うんですが、自分の狭いキャパシティのなかで最大限やるというのが、いまはちょうどいいのかもしれません。


―プロになりすぎず、少し素人寄りの目線で俯瞰して見ることは、結果的に“文化のまわりにいてその文化を盛り上げる”ことにつながっているのではと思いました。

最初は、その感じが重宝されたんですよね。「アイドルなのに、本が好きと発信してくれてありがとうございます」というふうに言っていただいたこともありました。たしかにその道ひとすじでやっていないからこそ持てる視点はあると思っていて、それは大事にしていきたいです。

本屋を始めるとき、相談したほかの本屋さんから「棚が少なすぎる」などプロ目線のアドバイスを多くいただいたんですが、「まあお金もないし、これでいこう!」と突っ走りました。本が多くないところは褒められることもあれば、残念がられることもあります。でも、なにがいいかはお客さんによって違うので、そこは割り切って。全部が全部100%だと個人店の意味がない気もするので、「できないことはできない、でもやれることは全力でやります」というスタンスですね。本好きにはたぶん物足りないんですけど、これから本を好きになる人にはちょうどいいかなって。

そういえば、本好きな常連さんは自分の持ってきた本を読みながら喫茶スペースでプリンを食べたりしてますね。だから、本屋という形を借りた遊び場みたいなものをつくっている感覚かもしれないです。パーセンテージで言ったら、8割くらいうどん屋の可能性があるんですよ、うち。本よりうどんのほうが売れているので(笑)。

ねむさんの姉・maaさんが振る舞う「たぬきつねうどん」とミニサイズの「アップルシナモンカレー」。

苦手なものへの誤解をひとつずつ解いていく

―本もそうですが、ねむさんは新しい世界に出会うことに対してどのような楽しさがあると感じますか?

私は昔から、いろんなものに対して偏見を持っているタイプでした。そういう自分のなかの誤解を、ひとつずつ解いていくことこそが、新しい世界と出会うことだと思っていて。

アイドルも、小さいときは好きじゃなかったんですよ。かわいいだけでちやほやされて……みたいな気持ちで見ていたのですが、実際になってみたら、こんなに大変なんだ、勘違いしていてごめんなさいって思いました。そしてすごく好きになった。
あと、パクチー(笑)。以前は「めっちゃタンスの味!」と思ってたのに、いまは専門店に行くくらい好きになりましたね。


―そういう経験って、みなさん持っているかもしれないですね。

そんなふうに、最初は苦手だったり偏見もたくさんあっていいと思うんです。歳をとるにつれて好きなものに変えていけるし、その瞬間を楽しめているから。

拒絶していたものを受け入れられている自分がけっこう気に入っているので、一つひとつ、そういうふうに変えていけたらいいなと思います。

いま必要なものをきちんと選ぶこと

―ライフスタイルについても教えてください。毎日の日課はありますか?

全然ないんです……。起きて、夢眠書店に行って、仕事を終えて、スーパーに行って、夕飯をつくる。共働きの主婦ですね。朝に白湯を飲むとかしていなくて……ごめんなさい……(笑)。料理はほぼ毎日しますが、疲れている日は夫に「焼肉に行きませんか?」とか「今日は出前でどうですか?」と連絡します。全然いやがらず受け入れていただけるので、サボることも積極的にしています。


―毎日を気持ちよく過ごすために心がけていることはありますか? 家事を手抜きすることもそうかもしれないですね。

わたし、たぶんそのあたりが抜けていて、よくないところなんですよね。ちゃんと暮らせてない。床にものを置いてしまう人間なので……。
あっ、でも、ひとつありました! 食洗機です。夢眠書店に来てくれる新婚さんに「円満な夫婦生活のためになにをしたらいいでしょうか?」と聞かれたときには「まず食洗機を買え」と言うようにしています。1台で軽く2年はうまくいきますよ。
結婚してはじめて食洗機を使ったとき、入れるだけで洗いものが終わるなんて、いままであの時間はなんだったんだろうと思いました。それで浮いた時間に夫婦でNetflixが見れるんですよ、すばらしいです。


―たしかに便利なものに頼るのも必要ですよね。ねむさんは普段ものを選ぶときにはどういう基準で選んでいるのですか?

根がオタクなので、これまでは保存用と使う用で、同じものをふたつ買っていたんです。たとえばサンダルだったら「来年はもうこのモデルが出ないかも」と、吐き潰したときのことを考えて2足買う。でも、いまはやめました。


―なにかきっかけがあったんですか?

単純に、収納する際の“土地代”がかかるなって。それに、ひとつあればいいということが、歳をとるにつれてやっとわかってきたんです。30歳と35歳で着る服は違うんだってことに気づいて。好きな服をずっと着たいというのはもちろん賛成ですが、「この丈、もう履かないよな」というスカートが色違いで2着あったりすると、このお金でいま着たいものを買えばよかったって……。だから、そのとき必要なものをちゃんと選んで、来年のために買うことはしなくなりました。いま履いているこの靴をちゃんと履き潰したら、ありがとうと言って処分できる人になりたいですね。

夢眠書店の蔵書コーナー。ねむさんが自宅から持ってきた本が並ぶ。

集めているのはおもちゃと年間パスポート

―なにかコレクションしているものはありますか?

おもちゃ類です。ディズニーランドのカチューシャとか、つける頭はひとつしかないのに30個くらいあるんですよ。ほかに、ぬいぐるみなんかもたくさんあります。というのも以前は「いつか子どもを産んでその子に遺産として託すし」みたいに考えていたんですよね。でも最近は、子孫に自分の断捨離を任せるのはよくないな、という気持ちになってきて。人が溜め込んだものを処分するのってすごく手間がかかるのに、わたしはまだ見ぬ子孫になんてことをやらせようとしてるんだと思ったので、いまは自分の代できちんと処分することに決めています。


―結婚してそういう考えに変わったのでしょうか?

そうですね、ひとりだと誰にもなにも言われませんが、夫にごくたまに「これはどうされるんですか、部屋が倉庫みたいになってますけど」みたいにチクっと言われることがあって……。着なくなった服はまとめて後輩に譲ったのですが、ヴィンテージのぬいぐるみとかは捨てられなくて、頭を抱えていますね。

―最近買ったなかでお気に入りのものはありますか? 

わたし、コレクションしているものと実用的なもの以外にはあまりものを買わないんです。でも、かたちに残らない体験にはお金をかけるほうかもしれません。おいしいものを食べに行ったり、それからミュージカルや旅行にも。そういえば、ずっと趣味としていろいろな施設の年間パスポートを集めています。各テーマパークはもちろん、大阪の万博記念公園や福岡のマリンワールド海の中道、海外の謎の施設のも持っています。特に水族館や動物園のパスポートはやっぱり買ってしまいますね。たとえ年に一度しか行かなくても、「ラッコの餌代になるといいな」と。いつでも行けるうれしさや、自分の行ける場所を増やしているという感覚もあります。


―最後に、これからやってみたいことはありますか?

いろんなものを子ども向けに展開したいですね。まだ内緒なのですが、たぬきゅんフレンズでとある計画を進めています。たぬきゅんのベビー用品も、すでに靴下はありますが別のアイテムもつくってみたい。ふわふわの赤ちゃん向け絵本とかもいいですね。

いろいろな活動を通して子どもの世界に触れる機会が増えていますし、まわりの子どもを見ていて、あれが必要かも、これがあったらいいなというアイデアが日常的に浮かぶことが多いので、そういう展開ができたら、もっと一緒に楽しめるかなと思って。それに、プリンセスに憧れるのと同じように、たぬきゅんも好きだと言ってもらえたらやっぱりすごくうれしいです。そういう子たちと一緒に成長しながら、いいものをつくっていけたらいいですね。

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