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きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.9(選者:山口博之さん)

2024.02.27

本を愛するあの人に、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を聞くこの企画。ブックディレクターの山口博之さんに紹介してもらうのは、「Charging Creativity - クリエイティブの扉を開く」をテーマに選んだ“創造すること”にまつわる2冊です。
あらゆるクリエイティブは、新たな自分の扉を開くカギになる。そして、まだ見ぬ世界へと飛び立つ勇気をくれます。

『熟達論』著:為末大(新潮社)

「Charging Creativity=クリエイティビティをチャージする」は、日本語だと“創造性を養う”といった言葉になるのでしょうか。「新たな価値や意味を作り出すこと」を創造することだとすると、そこには鍛錬によって磨かれた技術や思想、言葉によって生まれるものもあれば、スキルセットは置いておいて強い衝動に駆られたものづくりや、ウェルメイドであることへの反発としてのパンク的創造行為などもありそうです。

陸上選手だった為末大による『熟達論』と今までにない斬新な電子工作をつくりつづける三組による『雑に作る』は、タイトルは真逆のようでいて誰もが持っているものによって行われる創造的行為として共通しています。

――

為末は熟達とは「人間総体としての探求であり、技能と自分が影響しあい相互に高まること」と定義して、“学習し熟達させていく能力を誰もが持ち合わせている”と考えています。

「遊 不規則さを身につける」
「型 無意識にできるようになる」
「観 部分、関係、構造がわかる」
「心 中心をつかみ自在になる」
「空 我を忘れる」


という目次に書かれた順によって熟達への道は開かれると為末はいいます。好奇心のままに全力で遊ぶことから、アスリートでいうゾーン(空)の状態までを繋げ、学びと実践の関係を丁寧に組み立てていきます。

普段スポーツを学ぶ過程において、指導者から「集中しろ」や「考えろ」「(逆に)考えるな感じろ」のように抽象的な言葉が投げかけられます。為末はそうした曖昧な言い方を都度、明快な言葉に言い換えながら説明することで、暗黙知を言葉で構造化してくれます。

熟達はスポーツなど順位や勝ち負けのつくものに限りません。『「学び」そのものが「娯楽化」するのが熟達への道』であり、人間のポテンシャルを最大化する創造的な状態へと到る道が熟達の道なのです。

『雑に作る』著:石川大樹/ギャル電/藤原麻里菜(オライリー・ジャパン)

一方で『雑に作る』は、ある意味で熟達せずに創造性を発揮するための方法論。『熟達論』の目次でいう「遊」を徹底的にやり続け、ゾーンまでいかない創造性のありようを実践的に示してくれています。

「雑の極意」
一、気軽に作り始めること
一、完成度は低くてもまずは完成させること
一、見た目にこだわらないこと
一、1つの傑作より10の駄作を作ること
一、広く深く学ぶより、いま必要なことを学ぶこと
一、1つの技術で10作品作ること
一、「雑」をよいことととらえること


本の冒頭に書かれた極意を一読しただけで自分でもできそうな気になってきませんか? 熟達への道はどうも遠くて難しそうだと思っても、すぐ調達できるものを使っていまやりたいことをとにかくどんどんやってみることに希望を感じます。

インプットよりもアウトプットをし続ける中で身についてくる雑多だけど着実な解決策とできあがっていく作品。人間の代替としての二足歩行アンドロイトをつくれるようになるための熟達ではなく、自分がおもしろがれるもの、自分を“アゲる”ためのものを作りながら、作品も使う自分も更新(もしくはアップデート)し続けるような熟達の方法。難しいことを考えず、100均で買ったものを使い、わからないプログラムは“神からの贈り物”であるサンプルコードをコピペして数字を変えるだけだっていい。「雑にやることが世界を変えるかもしれない」と信じる人のために。


山口博之
ブックディレクター、編集者。good and son代表。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業後、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。選書集団BACHを経て、17年にgood and sonを設立。ショップやカフェ、ギャラリーなどさまざまな場のブックディレクションをはじめ、広告やブランドのクリエイティブディレクションなどを手がけ、そのほかにもさまざまな編集、執筆、企画などを行っている。
https://www.goodandson.com/


※該当書籍の取り扱いは各店舗へお問い合わせください


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