LUMINE MAGAZINE

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LUMINE meets ART PROJECT

ショーウィンドウの中に現れる、
もうひとつの時間の流れ

2020.09.10

アーティストの感性に触れ、何気ない日常に発見を。そんな思いを込めて、「LUMINE meets ART PROJECT」では館内でのアート展示やさまざまなアートイベントを行っています。
その一環として毎年開催されているのが「LUMINE meets ART AWARD」。“アートのある毎日”を広げる次世代のアーティストを発掘し、受賞作品をルミネの館内に飾るアートアワードです。

今年も多彩な作品が集まり、グランプリには藤倉麻子さんの《乾燥地帯の街路広告》が選出されました。
2020年9月15日(火)〜30日(水)の展示に向けて準備を進める藤倉さんに、受賞作品のコンセプトや制作の原体験について聞きました。

始まりは、思考するために撮った映像作品

――普段はどんな作品をつくっていますか?

主にCGを使った映像メディアやインスタレーションで、都市における過剰性などを表現しています。
街にあるインフラ構造物や工業製品は、都市で生活する人の視界のなかで機能を果たしています。でも、その機能を考えず、モノそのものを見つめる時間が人間にはある。そう感じたことをきっかけに、モノがモノとして立ち現れる瞬間みたいなものを表現したいと思うようになりました。

――作品制作を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

いろいろと思考するには、なにかにアウトプットしたほうが考えやすいかなと思って、実写の映像作品をつくったのが最初です。

――表現したいという気持ちからではなく、思考のヒントとして作品をつくったんですね。

そうですね。CGも芸大に入ってから学びました。あるとき試しに使ってみて、面白かったので今もそのまま続けている感じです。

街なかのモノがまとう別の時間

――「LUMINE meets ART AWARD」に応募したのは初めてだったんですよね。

はい。魅力に感じたのは、ルミネ館内のショーウィンドウで展示できるところでした。ギャラリーのようなホワイトキューブのなかに展示空間をつくることと、街の景色のなかにつくるのはまったく違うと思います。

――受賞作品《乾燥地帯の街路広告》のコンセプトについて教えてください。

まず、最近の自分のテーマとして、街なかの看板や広告物がまとう時間と、それに対する人間の距離みたいなものについて考えたいなという思いがありました。近代以降の、合理的な生産ラインにのっとって造られた都市のなかに、私たちが普段感じている時間とは別の時間の流れを見出したいと。

《乾燥地帯の街路広告》では、ルミネ、つまり商業施設という合理的な時間の流れに沿っている場所のなかに、別の時間をつくり出せたらなと。現実には時間と空間を共有しているけども、ちょっと独立しているような場所をショーウィンドウの中につくりたいと考えました。

そういうのって、映像や立体などさまざまなメディアを通して虚構の世界を観ることでのみ、認識したり想像したりできるものではないかと思っていて。だから展示では、サイネージディスプレイを模したふたつの筐体にモニターを設置し、2画面でCGの映像作品を流します。それに加えて、看板やのぼり旗を模したプロダクトを置く予定です。

《乾燥地帯の街路広告》の展示イメージ。

当たり前に、街なかに佇むもの

――《乾燥地帯の街路広告》では、街なかでよく見るモチーフが使われていますね。

広告物や看板、サイネージディスプレイは最近特に興味があるモチーフです。それらは都市の基盤のひとつになっているものですが、いつまでとか、誰に向けてとか、そういうことを明確に宣言しないままそこにあって……でも、歩いていると広告ってすごく目に入ってきますよね。そんなふうに、自分が意識的に見ようとしていないものも、私たちは普段たくさん見ているなと思いました。

いろんな時間が記載されているものがごちゃ混ぜになって、並列に並んでいる。それらのモノは、人間が感じている時間から独立したものをまとっている気がして。そういうものをショーウィンドウに置くことで、そこにだけ違う時間が流れているかもしれないと考えるきっかけになる展示にしたいと思いました。

――展示場所であるルミネには、駅ビルという特徴もあります。駅が持つ公共性のようなものへの関心はありましたか?

もともと公共性のある構造物に興味がありました。たしかに、ルミネは商業施設と公共性のある駅が融合しているような存在ですよね。駅や線路は規則性を保って都市を形成しているし、そういうものが交差している特別な場所な気がします。

見えないものを想像する

――もともとインフラ構造物に興味を持っていたとのことでしたが、きっかけはあったのでしょうか?

私は埼玉の郊外で育ったのですが、田んぼが広がる大地のなかに建設途中の高速道路がバーンとあって、それをよく眺めていたんです。まだ車も走っていなくて、電気もついていない状態だと、コンクリート、鉄、砂、土とか、マテリアルそのものを見つめることが多くて。それらがどこに存在しているのかわからなくなるような感覚になったんです。それで、視界について考えるようになりました。

建設途中の高速道路には、当然入ることができません。もし入れても、ずっと先にある端まで見ることはできなくて、人間の視界では全体像が把握できない。そんなことを考えながら生活するなかで、手に届かないものとか見えないもの、そういうことにも興味を持ち始めました。

――過去の作品では、街の排水設備がモチーフになっているものもありますね。

排水設備も気になるインフラのひとつです。個人の住宅や公共の道路、大きなビルなど、あらゆる場所にあって、それが地下を張ってさらに下水処理施設や川につながっていて。見えていないところでネットワークのようなものができあがっているんですよね。そこでも時間はちゃんと流れていて、色や匂いが立ち上がったり、設備が劣化したり補強されたりと、動きが絶え間なくあると思います。

そういうふうに、見えないところについてよく想像します。壁の向こうとか、水平線の向こう、他人の家の中……それに、見ていても手にできないものや、支配できないもの。そういうものに思いを馳せながら日々を過ごしていきたいです。

都市を見る新たな視点を見出したい

――ファッションビルという場所性は、藤倉さんのなかでどういった意味合いがありますか。

「LUMINE meets ART AWARD」に応募したとき、ファッションとアートの関係性にも興味がありました。ファッションがビジュアルや哲学という形でアートを社会に普及させる速度や力は強いものがあると思うので、「LUMINE meets ART AWARD」を通してファッションがアートをどう捉えているか考えたいという思いがあります。

――アーティストとしての現在地について、どのように考えていますか?

テーマについて思考を深めることをはじめとして、映像やさまざまなモノ、素材を開拓し、表現することについて積極的に取り組んでいきたいと思っています。

――最後に、展示に向けた意気込みをお願いします。

鑑賞者は、展示が目的で来た人ではなく、偶然通りかかった人が大半になると思うので、そこも楽しみだったりします。作品を通して、都市を見る目が変化したり、新しい領域を開拓してもらえたりしたらすごく嬉しいですね。そのためにも、ていねいに面白いものをつくりたいと思います。


<プロフィール>
藤倉麻子/Asako Fujikura
1992年生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。工業製品やインフラストラクチャーが自律を獲得し、運動する様子を描き出す作品を展開している。道具から道具性をはぎとり、日常において忘却される都市の存在を示す。第22回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品選出。

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「LUMINE meets ART AWARD 2019-2020 EXHIBITION」
会期:2020年9月15(火)〜30日(水)
場所:ルミネ新宿、ルミネエスト新宿、ニュウマン新宿のショーウィンドウ

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