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CLASS ROOM

おいしいものに導かれ、人と風土を味わう旅。

2021.05.14

CLASS ROOMは、ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
2021年4月講座のゲストは、料理ユニット「南風食堂」主宰の三原寛子さん。「食から地域を味わう」をテーマに、食との向き合い方や旅先での体験を語っていただきました。

>> インタビューを動画で見る:前編後編


おいしいもので誰かの“幸せ”をつくる仕事

―食にまつわるお仕事を始めたきっかけを教えてください。

写真の大学に通っていて、卒業後は学生時代からアルバイトをしていた編集事務所に就職したんですね。その会社で『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』というキューバ音楽の映画に出てくるミュージシャンのインタビュー本を出すことになり、「お前は食いしん坊だから、出版パーティーのときのごはんを作ってみたら」と言われて。映画館で行われた出版パーティーでキューバ料理のケータリングをしたのが最初です。「南風食堂」という屋号は、そのときになんとなくつけたもので、20年経った今ものんびり続けています。

―いきなりパーティーでのケータリング、しかもキューバ料理……すごいスタートですね。そこから20年続けてこられたなかで、大切にしている想いやコンセプトはありますか?

私はおいしいものが好きで、食べることが好き。そして、食べる人たちがうれしそうにしている場が好きなんです。ひとつ仕事をしたら、誰かが「うちでもお願い」みたいな感じで声をかけてくださったりして、本当にゆっくりと仕事を広げてきた感覚です。大事にしていることは、場や人間関係を大事にして、そのときにできるかぎりの全力でバットを振ることでしょうか。あとはやっぱり、私は本当に食いしん坊で(笑)、ケータリングやフードディレクションをしているお店に来てくださる方もそうだと思うので、とにかくおいしいものを振る舞うことを大切にしています。それに加えて、ここ数年は食養の勉強もしているので、身体にいいものを提供できたらと思っています。

ごはんがあって、楽しい場があれば、みんな幸せな気持ちになる。人の幸せと近いところにいられるこの仕事は、すごく幸せな仕事だなと思います。そういう場をもっと作っていきたいですね。そのうえで、食べてくださって、おいしいなと思ってくれた方が声をかけてくださる。そんなふうにして続いていくといいなと思います。

人との出会いで、食への扉が開いていく

―最近は健康のほうにも興味が向いているんですね。

そうなんです。私はもともと消化力が強く、暴飲暴食をしても平気なほう。だから健康に留意した食を意識してこなかったのですが、母が病気になったことで、なにが身体に悪くて、どういう仕組みで病気になるのかを勉強するようになりました。マクロビの創始者の方の本を読んで、そのベースが中医学や江戸時代の食養にあることを知り、中医学を学んだり。さらに、アーユルヴェーダの先生と出会ったことで、アーユルヴェーダ的な考えで身体や食を見ることに興味がわき、勉強しているところです。

―「消化力が強い」という表現、初めて聞きました。

アーユルヴェーダ的には身体のすべての“管”が通っていることが健康で、自分の消化力以上のものを身体に入れてしまうと、未消化物が溜まって病気になると考えられているんです。でも私は、すぐお腹が空いて、すぐ食べたくなっちゃうんですけどね(笑)。

―(笑)。気になったものを深堀りしているんですね。ほかにも、鮒鮓(ふなずし)づくりを習っていると聞きました。

かなり前から習いに行っています。初めて食べたとき、すごく衝撃を受けたんですよ。自分の「おいしい」の辞書のまったく外側にあるというか……食べてグンと元気になっていくような、なんだこれは!という体験でした。特に、私が習っていたおばあちゃんの鮒鮓はすごくおいしくて。でもなにが違うのか本当にわからない。もはや味とか料理というよりも、新しい体験をしたという感覚です。

ちなみに以前、ミャンマーにも鮒鮓があることを知って驚き、現地に行ってみたことがあります。そしたら本当に市場で売られていて。日本語ができる人をなんとか見つけ出し、店の人に鮒をどれぐらい漬けているのかとか、レシピを教えてもらったりしました。そういう出会いによってどんどん食への扉が開いていき、またさらに奥に行きたいという気持ちになります。

―食がきっかけになって旅をしているような感じでしょうか。

そうですね。逆に、旅は食がきっかけでしかしていないかもしれません。「想像を超えるようなおいしいものがありそう」という予感に導かれて、訪れる場所を選ぶことが多い気がします。

三原さんが長年習っている鮒鮓。玄米を使ったものなど、実はさまざまなバリエーションがあるそう。

国内外で触れた食とその周りにある文化

―訪れたなかで印象に残っている場所はありますか?

国内だと、私が始めた「ギブミーベジタブル」という野菜のイベントで訪れた場所でしょうか。そのイベント、入場料が野菜なんです。お客さんが野菜を持ち寄り、それを使って6、7人の料理人が即席で料理を作っていく。会場ではほかに音楽ライブやいろんな催しもあります。それをもう全国で70回くらいやっていて、滋賀県の彦根なんかは毎年のように訪れています。料理家はだいたい半数以上が地元の方で、その方たちへのギャラも野菜なんです。そんな特殊なイベントに参加してくださる方って、やっぱり面白い人が多くて。そういう人たちとの出会いは大きな恩恵ですね。

海外は、ひとりで行く場合も、友人と行く場合も、それからお仕事で行かせていただく場合も、事前にとにかくおいしいものを調べて現地の人やコーディネーターを紹介してもらい、市場などを巡ります。最近行ったのは、南コーカサス、旧ソビエト連邦のジョージア。地元の方のおうちにお邪魔して、お父さんが料理を作ってくださったとき、国の文化だと思うのですが、乾杯の前に、簡単なスピーチをしてからなにかに乾杯するのを繰り返すのです。食事の最後に、お父さんが「自分が行うことを愛するように」と言って、「愛に」とみんなで乾杯して。なんだか胸が熱くなりました。ジョージアは隣国との戦乱やロシアの統治など厳しい時代もあったと思うのですが、そういう背景もあるからか、出会った方々の純粋さや、言葉一つひとつの重さが印象に残っています。

それから、友だちと行ったベトナムも印象的です。とにかくおいしいものをたくさん食べようということで、街のいろんな人に聞いたり、飲食店の店員さんに別のおいしいお店を聞いたりしながら、本当においしいものだけを目的に旅をしました。

―味のディテールや食べたものではなく、おいしいものの周りにある体験のお話が多いのが面白いです。

たしかにそうかも……味として吸収するというよりは、文化というか、そこに住んでいる人たちとの触れ合いを含めた食の体験が好きなのかもしれないですね。

メキシコも思い出深い場所のひとつ。「現地に住んでいる友人が観光地や都心でないところに連れて行ってくれて、おいしいものをとにかくたくさん食べました」。

生産者の存在や土地の風土を生かした料理づくり

―今、旅ルミネのプロジェクトで、山形県の最上地方をテーマにしたお弁当をプロデュースされていると聞きました。

はい、そうなんです。最上地方は、その一部である新庄でギブミーベジタブルを開催していてもともとつながりがありました。以前訪れたときに感じた、人々の温かさやチャーミングさがすごく印象的で。お弁当にも、あのあったかい感じとか、素朴なおいしさを体験したことが生かせたらと思っています。食べることで生産者さんのストーリーも同時にわかる仕組みになっているお弁当なので、最上に行っているような気持ちになったり、いつか訪れるための一歩になるようなものにできたらいいですね。

ただ、難しいのは、たとえば漬物を入れるとして、現地のおばあちゃんがつくる漬物にいくら似せても、やっぱりオリジナルのほうがおいしいし力があるんです。私ができることは、最上の味を再現するのではなく、季節のよさを足してみたり、もしかしたらスパイスとかハーブといった、別のフレーバーを足したりして、発見があるようなものを作ることだと思うんです。もともとあるものを大事にしながら、アレンジを加える。その加減をさぐるのは、難しくもあり楽しいところです。

―その土地の食から自分が受け取ったものってなんだろう?ということを解釈して、再構築するイメージでしょうか。

そうですね。作っている方の雰囲気やその土地の風土をなるべく出して、そこにちょっとだけ色を添えられたらと。特に最近は野菜のイベントなどでいろんな方にお会いしたり、地方の食材に触れる機会が多いので、出しゃばらず、引きすぎずできるといいなと思っています。

「ギブミーベジタブル」でのひとコマ。

“おいしい”に一歩踏み込んでみる

―コロナ禍もあり、今は“お取り寄せ”をする人が増えているかと思います。三原さんがお取り寄せをしたり、食をリサーチするときのコツはありますか?

なにかを食べておいしいと思ったとき、どんな要素に対しておいしいと感じたのか掘り下げてみると、自分の好きなものがわかってくると思います。たとえば納豆で、豆の大きさや食感が好きだと感じたら、その豆の品種で検索するといろいろ出てくる。そんなふうに、「おいしい」に一歩踏み込んでみるのもおもしろいかもしれません。
最近私は、地味なビリヤニが好きだなと思って。ビリヤニって、具がたくさん入っていたり、サフランで色づけされたりしていて派手なイメージがあるのですが、よく行く新大久保のスパイス屋さんで、スパイスやスープで炊き込んだような地味なビリヤニが売っていたんです。それを食べたらすごくおいしかったので、「地味なビリヤニ」で検索しました(笑)。

さらには、パキスタンのビリヤニとか炊き込みご飯が好きなんだということにも気づいて。パキスタンの方のコミュニティがある日本の街を調べ、ネットでその街のカレー屋さんのメニューを眺めていたら自分の好きな感じがわかってきたので、実際に食べに行ったりもしています。

―味の好みにちょっと意識を向けるだけで、自分なりの食文化みたいなものができていくかもしれませんね。

冷蔵庫の中が自分の好きなものばっかりだったらうれしいですよね。それだけで健康で長生きできそうです(笑)。

―たしかに(笑)。最後に、三原さんにとってよい暮らしとはなんでしょうか?

子供のころは、わくわくすることや発見にあふれていましたが、大人になるといろんなことに対して「なんとなく知っている」気持ちになってしまうものですよね。でもそうならずに、ものごとを新鮮に感じられることが続いていく暮らしがよい暮らしなのかなと。健康であるとか、おいしいものを食べることももちろん大事ですが、ワクワクできるものが日常のなかにたくさんあるといいなと思います。

三原さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『美味放浪記』著:檀 一雄(中央公論新社)

「雑誌『旅』に連載されていた作家・壇一雄さんの日本の旅と世界の旅をまとめた一冊。
国内外問わず放浪し、市場を訪れ現地の人並に紛れ込み、その土地の料理を食べ、自分でも料理しまくった壇さん。
美味を求めることは、それすなわち、食べることで人々の命を輝く、その秘密に触れること。中学生のわたしは、日本は広い、世界はもっと広いと、まだ見知らぬ料理を想像してわくわくが止まらなく、壇さんのあくなき探究心と実践、食いしん坊さにとても影響を受けました」


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<プロフィール>
三原寛子(「南風食堂」主宰)
1999年、大学時代の同級生である小岩里佳と料理ユニット「南風食堂」を結成。食に関する企画提案や編集物の制作、アートプロジェクトでの作品制作展示、雑誌やWEBなどの料理紹介、商品開発や店舗のフードディレクションなど幅広く活動。著作に『乾物の本』『WHOLE COOKING』など。
https://www.nanpushokudo.com/


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