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CLASS ROOM

家族が健やかでいられるために、まず自分が心地よく過ごせる住空間を

2021.05.26

CLASS ROOMは、ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeのルミネ公式チャンネルで配信しています。
2021年5月講座では、グラフィックデザイナーの葉田いづみさんをゲストに迎えました。テーマは「自分を癒やす暮らしの整え方」。インテリアのメディアなどに掲載されることも多い素敵なご自宅にお邪魔し、過ごしやすい空間づくりや、そのための家族ルールについて聞きました。

>> インタビューを動画で見る:前編後編

フルリノベーションで目指した、ちょうどいいモダン

―ふだんのお仕事について教えてください。

グラフィックデザイナーとして、主に書籍のデザインをしています。表紙から中のページまで、すべてを手がけるケースが多いですね。最近出版された『「日本の手仕事・暮らしの道具店 cotogoto」の愛用品じまん』は、日本の暮らしの道具を紹介しているお店の本。こちらの『小さな野花の刺しゅう』は刺しゅうの作品がいろいろ載っていて、その刺し方を解説しているハウツー本です。書籍のほか、商品のパッケージやパンフレットのデザインもときどき手がけています。

仕事と並行して、カメラマンとイラストレーターと編集者と私の女性4人でwitchi tai to(ウィチタイトゥ)というユニットを組んでいまして、2020年に『きみはいつも、おかしなものばかり欲しがっていた/You only wanted only strange things』という本を出しました。なかなか説明が難しいのですが……架空の登場人物の物語を設定し、それに沿っていろんなシチュエーションを写真で撮ったりイラストで表現したりした、作品集みたいなものです。

―依頼を受けてつくるだけでなく、自分たちの表現したいものを形にしているんですね。お仕事はご自宅でされているんですか?

はい。打ち合わせや撮影の立ち会いで出かけることもありますが、作業はほとんど家で行っています。

―素敵なお住まいですよね。中古のマンションを購入してリノベーションされたということですが、こだわったポイントはありますか?

フルリノベーションをしたんですけれども、特に気に入っているのは床の仕上げでしょうか。普通のフローリングとは違い、合板を敷き詰めてそれをグレーのペンキで塗っているんです。この感じはけっこう気に入っていますね。あんまりほかにない雰囲気になっているかなと思います。写真で見るとモルタルのように見えるのですが、モルタルほど冷たさや硬さがなく、フローリングに近い柔らかさがあるので暮らしやすいですよ。

―白とグレーを基調にされていますが、色数はあえて抑えているのですか?

色数はあまり気にしていなくて、自然にモノトーンに収まっている感じです。基本は白、黒、グレー。木を使った椅子もあるのですが、木の面積が大きくないので、そこまでナチュラルな雰囲気にはなっていないのかなって。
私も夫も、どちらかというとナチュラルな空間ではなくモダンな空間が好きなので、“住みにくいほどモダンではないけれども、すっきりして見える空間”を目指しました。

“整えること”はデザインの仕事にも通じる

―ものがあるべきところにきちんと収まっているような印象があります。

私はもともと、ものをそんなに持たない性分なんです。結婚する前は長くひとり暮らしをしていて、そのときも家具やものは少なかったですね。

―昔から整理整頓が好きだったんでしょうか?

実家にいた頃はどうだったかな……母親がわりとどんどん処分するタイプなので、その影響もあるかもしれません。ひとり暮らし時代は、ワンルームマンションとか収納が少ない物件にもすごく長く住んでいて、そういうところだと、どうしてもものを減らさないといけないじゃないですか。あと、引越しが大変になるのが嫌だったので、なるべく増やさないように気をつけていましたね。

―たしかに、引っ越しのときって自分が持っているものの物量がわかりますよね。引っ越しの前は減らすと思うのですが、なにを基準に残すものと手放すものを分けるんですか?

一番量があってかさばってしまうのは本なのですが、仕事上どうしても大きくは減らせないんですよね。なのでそれ以外の、たとえば衣類なんかを極力減らしていました。

―「すっきり暮らしたい」という感覚は、デザインの仕事、つまり“整える”仕事をしているのも影響しているんでしょうか?

そうかもしれないです。デザインは、使うものを選んで限られた誌面のなかにどううまく整理して入れるかという作業なので、そもそもそういう行為が得意なのかもしれないですね。

みんながストレスなく過ごすためのルール

―ご結婚されて、今は旦那さまとお子さまとの3人暮らしですよね。

はい、そうです。夫は私と反対で、いろんなものを集めて全然捨てない人。そのあたりのバランスを保つのが難しいのですが、家族の共有スペースについては、なるべく整えてすっきり見えるように気をつけています。飾るものや家具は一緒に選んだり、「こういうの買いたいんだけどどうかな?」と相談しています。

―お子さんは今小学生ということなので、あっという間にものが増えたり、散らかることもありますか?

やっぱり週末とかはすごいことになっていて、床中にプラレールが敷かれています(笑)。ただ、子どもの場合は仕方ないかなと半ば諦めているので、そこまでストレスには感じないですね。

―自分ひとりではなく、家族という単位で住まいを整えていくために、ルールを設けていたりするんでしょうか。

夫はものを飾りたい人なので、家のなかで玄関のシューズボックスの上だけは自由に飾っていいスペースにしています。
子どもの場合は難しいんですけど、まだそこまで大きくないので、けっこう忘れてしまうんですよね。飾っても、ある程度時間が経つとその存在を本人が忘れていたりするので、本人が満足したかな、そろそろ忘れたかなっていうタイミングを見計らって、収納したり、別の場所に移動させたりしています(笑)。

―家族で一緒に暮らしをつくりあげていくことで、関係性がよくなったり、コミュニケーションが増えたり、あるいはお子さんが自然と整理整頓が得意になっていったりということはありますか?

ほかのお子さんと比較していないのでわからないんですけど、うちの子は整理整頓できるほうかもしれないなとは思います。私の片付け方とか、箱の中におもちゃをどう入れるかを見ているようで、同じように片付けていたり。プラレールも、増えてしまっているのでぐしゃっと入れると箱のふたが閉まらなかったりするんですね。それを私がなるべく揃えて入れるようにしているのを見て、こないだ同じようにやっていたので、自然と真似しているんだなと感じました。

浮かせる、吊るす。掃除をしやすくする工夫

―すっきりした家だと、家事をするのもラクですか?

やっぱり掃除はしやすいですね。家具をなるべく床につけず浮かせているので、掃除機はいつもすぐにかけられる状態です。
私、掃除がそんなに好きではないんです。全般的に面倒くさがりなので、昔から掃除のしやすさやモチベーションを高めるために、床になるべくものを置かないようにしたり、棚の上に飾らないようにしていました。

―だからテレビ台も浮かせているんですね。

はい。以前から、テレビ台というものがどうも嫌だなと思っていまして。なんとなく上にものを置いちゃって、ごちゃごちゃしてきますよね。なので、この家に住むにあたって、テレビボードを置くのはやめてテレビは壁付けにしようと決めました。

―玄関も、フックでものが掛けられるようになっていたりしていますね。

そうなんです、掛けるのが好き。それも浮かせて掃除をしやすくするという理由で、掛けられるものはとにかく掛けています。クローゼットの中や浴室の小物も吊るしていますよ。床やなにかの上に置くとそこに埃がたまりますし、毎回どけて掃除するのも手間だなって。

―浮かせる以外にも、工夫していることはありますか? たとえばキッチンもすごくすっきりしていますよね。

食器はそんなにたくさん持っているわけじゃないので、食器棚を置かずに全部シンク下の引き出しに入れるようにしています。

―なるほど、参考になります。最後に、葉田さんにとっていい暮らしとはどんな暮らしでしょうか?

私にとっては、家族が健康でいられることが一番大事なんですよね。そのためにはまず自分が精神的にも身体的にも健やかで、機嫌よく暮らせること。そうすると、家族に対しても優しくできたり、うまく関係性が築けると思います。なので、いい暮らしとは“自分が心地よく過ごせるような環境をつくること”です。

葉田さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『イーム・ノームと森の仲間たち』著:岩田道夫(未知谷)

「まず登場人物の名前が秀逸。イーム・ノーム、ザザ・ラパン、ホフぎつね、クふくろう…。そして章タイトルが最高。『よいことがあるような気のしたミーメ嬢にほんとうによいことのあった話』、まるでカーヴァーの小説のタイトル。ボールペンで走り書きしたような挿絵も絶妙な可愛らしさ。詩的で哲学的な文体、ときどき翻訳された日本語のようなぎこちなさがあり、かえってそこに心地よさを感じます。おそらく児童文学に分類される作品だと思いますが、大人にこそ勧めたい一冊です」

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<プロフィール>
葉田いづみ(グラフィックデザイナー)
静岡県出身、東京都在住。2つのデザイン事務所勤務を経て、2005年に独立。主に書籍のデザインを手がける。最近の仕事に『小さな野花の刺しゅう』著:マカベアリス(成美堂出版)、『「日本の手仕事・暮らしの道具店cotogoto」の愛用品じまん』著:cotogoto(KADOKAWA)など。女性4人のディレクションユニットwitchi tai toとしても活動。
https://www.instagram.com/iz_nsmt


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