2019.05.22
Report 1/3

アートとの出会いの楽しみ方

講師:永井秀二(クリエイティブディレクター)

5月講座は、“東京”から生み出されるアート、デザイン、カルチャーを世界に発信していく「TOKYO CULTUART by BEAMS」(以下、CULTUART)のクリエイティブディレクターを務める、永井秀二さんを講師に迎えました。永井さん自身の体験をベースに、オススメのアート鑑賞法やアートを身近に楽しむ秘訣について教わりました。

1000人いれば1000通りでいい

BEAMSに入社したのは1989年。アートについて、特別な教育を受けてきたわけではないと話す永井さんは、自分なりに絵を描いていたことがきっかけで、BEAMSで働くようになりました。CULTUART以前は、Tシャツという“キャンバス”にアートを表現する「BEAMS T」を立ち上げています。

30年間のBEAMS人生で、アートにまつわる仕事を受け持つことになったのは、実体験の影響も少なくないようです。

海外アーティストの展覧会に、好きで行っていたんですね。展示作品は高額で、買うことはできなかったから、グッズやTシャツを買って帰っていました。そういうものは展覧会が終わっちゃうと無くなってしまうけど、1年中並べておいたら人気が出るんじゃないかと思ったんですよ。

Tシャツに海外の作品をプリントして販売することを経て、アーティストやデザイナーなどの作品を販売するようになり、永井さんはずっとアートと向き合っています。好みの作家や注目しているアーティストのなかには、肩書きが定まっていない人も含まれているそうです。

どちらでもいいんですけどね。本人がデザイナーと名乗っていても、ぼくにはアーティストに思えるクリエイターはいて。それは、見る人の解釈によって違っていくことだから。1000人見る人がいたら、1000通りの解釈があっていいと思うんです。

自分なりのものさしを探してみよう

ご自身の感覚で、アートと向き合ってきた永井さんは、アートにまつわる教育を受けてこなかったことが却ってよかったと感じています。

まったくのど素人からスタートしたおかげで、決まったレールに乗らなかったから、映画や音楽、小説だったりと同一線上にアートを置くことができました。ぼくのアートの見方は邪道かもしれないけど、作品を見る前に情報を調べるようなことはせず、作品と対峙することを大事にしています。

このアーティストは何を表現しているんだろう。何を訴えたかったのか。どんな状況でつくられたものなのかな。そういうことを作品の前でじっくり考えて、鑑賞しているんです。

もしも美術館で充実した時間を過ごしたいと思っている人がいるなら、同じように作品について考えながら鑑賞してみることを永井さんはオススメしてくれました。

すると、好きなアーティストやアートが見つかるし、評価する自分なりのものさしもできてくると思います。美術館には大量に作品があるので、すべて、そのように鑑賞すると1日中かかりますけど、1回トライしてみるのもいいんじゃないかな。

部屋にアートがある、「それがいい」

自分らしくアーティストやアートと付き合っていけばいいんだよと、永井さんは背中を押してくれました。

HIP HOPを聴いていたらHIP HOPに詳しくなっていくのと同じ。HIP HOP好きがモーツァルトを聴いていないからといって、「音楽通じゃない」なんてことはありませんよね。歴史を学ぶことは、それはそれで重要だけれど、まずは本やウェブを読む前に、実際に実物を見たほうがいいですよ。

できることなら、作品を家に飾ることがオススメ。

アーティストが、時間をかけてつくったアートには、パワーが入っています。神社にはお参りする人が多く集まるから、パワースポットになっているのと同じで。そのパワーっていうのは、科学的に証明されていないけど、100年、1000年経ったときに、そういうパワーがあると言われるようになるって、ぼくは信じているんですよ。

作品に手が出ないなら、限定グッズでもいいし、作品集やポスター、ポストカードでもいい。部屋に作品がある、「それがいいんですよね」と永井さんは笑顔を見せました。

対価の外に平穏はある

講義は後半に。参加者の質問に答える時間を迎えました。

Q.1000人いたら1000通りの見方があるとおっしゃいましたが、では、なぜ名作は名作なのでしょうか?

自分なりに評価できる人たちの多くがその作品に手をあげるからじゃないでしょうか。アーティストやアートの評価が高まっていく背景には、自分らしく評価できる人が多いということがあると思うんです。でも、これじゃあ話の辻褄が合っていないかもしれませんね……ちょっと考えます! 質問してくれた方には、個別で、交流会のときにお話ししますね。

一人ひとりの質問を、丁寧に受け答えする永井さんらしさが表れた、お返事でした。

Q.今後やってみたいことはありますか?

オタクやアニメ、和といったこと、それら全体にまたがっている、モワモワっとした日本の魅力を海外に出していきたいです。海外の人たちも、そういうものを求めているんじゃないかなぁ。

最後に、CLASS ROOM恒例の質問にも答えてもらいました。永井さんにとって、「良い暮らし」とは?

洋服もそうだし、食もそう、アートもライフスタイルの一部だとして、そういうものがすべて満たされたあとに何が大事になっていくのかを考えたら、精神的な部分がそれに当たるんだろうと思うんです。ぼくの経験から話すと、そういった精神面を満たしてくれるのは、ボランティア。

利害関係がなく、ビジネスが成立しないところで、近所の掃除をしてみたり、地域の会合に参加してみたりする。対価を求めないところに心の平穏が生まれるんじゃないかと感じています。

>>交流会の様子はこちら

永井秀二(クリエイティブディレクター)

ビームス創造研究所 クリエイティブディレクター、TOKYO CULTUART by BEAMS ディレクター。大学卒業後、株式会社ビームス入社「Uniform Circus BEAMS」にてチームオーダー、SPグッズのデザイン、企画開発等を経て、2000年、Tシャツ専門レーベル「BEAMST」を立ち上げ、バイヤーとしての業務の他、エキシビションの企画、プロデュース等を行う。2008年TOKYOのクリエイションを世界に発信する「TOKYO CULTUART by BEAMS」を設立。店舗の運営、展示のキュレーション他、カルチャー文芸誌「IN THE CITY」のプロデュース、発行を行う。

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