2017.3.15
Report 1/3

デジタル時代のファッションの楽しみ方

講師:市川渚(ファッション・コンサルタント)

2017年3月15日(水)、TRUNK(HOTEL)開業準備室で開催された特別講座「デジタル時代のファッションの楽しみ方」。ファッションとテクノロジー、デジタルを繋ぐフリーランスのコンサルタントとして活躍する市川渚さんが、デジタル時代におけるファッションのあり方・楽しみ方を教えてくれました。その様子をどうぞ。

仲間とつながるインターネットが不可欠な存在に

講座は、まず市川さんと「デジタル」との出会いの話から。話は、まだFacebookやInstagramなどSNSが登場する以前、インターネットの黎明期にまでさかのぼります。多感な中学生時代、市川さんは地域という共通点だけで生徒が集められている学校という狭いコミュニティに違和感を感じていたのだそう。

見た目が派手な上に、趣味が合う同級生がいまいちいなくて、学校に行くのがイヤになるときもありましたね(笑)。そんなときにのめり込んだのがインターネット。中学2年くらいのときに親がパソコンを買い与えてくれて、ウェブサイトを自分でつくって立ち上げました。そこで趣味や価値観の合う友人と出会って、週末はその仲間と原宿や渋谷に集まったりして。学校という限定的な場での出会いよりもずっと楽しくて、当時はそこでの人間関係に救われた部分もありました。

以来、市川さんにとって「デジタル」は重要なキーワードになっていきます。ただし、そのままテクノロジーの分野に進路を求めなかったのは、デジタルと同じくらいファッションにも大きな関心があったから。

パソコンやインターネットは私にとって大切な存在でしたが、将来の職業として考えていたのは子どもの頃からファッションデザイナーでした。いざファッションの専門学校に進んでみると、周囲に私なんかよりセンスや才能がある子がいっぱいいて。挫折しそうになったときに、ファッションPRという仕事があることを知って。才能のあるデザイナーをサポートするような立場の方が自分に向いているんじゃないかと思って、ファッションPRの道に進みました。

その後、ハイブランドでのPR担当などを経て独立。現在は「ファッション」を核として、主にデジタル領域におけるコミュニケーションのコンサルティングを行っているという市川さん。「デジタルテクノロジー×ファッション」に特化した日本初のウェブマガジン「DiFa」の立ち上げをはじめ、ファッションとテクノロジーをテーマにした三越伊勢丹のキャンペーンのプロデュース、クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」顧問、ファッション系メディアでの執筆など、その活躍は多岐にわたっています。

デジタルとは、誰にでも明確に“伝える”ことができるもの

そんな市川さんにとって、「デジタル」とはどんな意味をもつものなのでしょうか? 実はファッション業界は、今でこそInstagramなどの活用が進んでいますが、以前はむしろデジタル化という点では他分野に比べ遅れている印象があったそう。

デジタルって、概念的な部分をわかりやすく言えば「情報を数値化することで、モノの状態を伝えること」だと思っています。極論的な例えですが、スカートやパンツの丈を詰めるときに、ピンを刺して位置を記します。これがデジタルの対義語としてよく用いられる「アナログ」な状態。ただそれだと、もしピンが取れてしまったら丈がわからなくなってしまいます。でもピンの位置を測って「◯◯cm」と数値化すれば、誰にでも共有できるし、間違えることもないでしょう。これがデジタルの良さだと私は思っています。

いわば、デジタル化とは、曖昧さをなくして誰もが同じように理解できるように表現すること。ここから「Make」「Wear」「Discover」「Play」の4つのキーワードに沿って、市川さんが注目している最新のデジタルアイテムやサービス、アプリを紹介してくれました。誰もがファッションクリエイターになれたり、今までにないファッションアイテムが登場したり……。箱が充電器になり、スマートフォンと連動する指輪型のウェアラブルデバイス「RINGLY」を手にしながら、デジタルがファッションの可能性を広げてくれると市川さんは言います。

発売されてから2年弱経つAppleのスマートウォッチ「Apple Watch Hermès」を使っているのですが、改めて「腕時計って便利なんだ!」ということに気づきました(笑)。さっと手首を見れば時間を確認できるって、すごくスマートじゃないですか。最先端のデジタルアイテムを使ってみることによって、逆にアナログ的なものの良さに気づいたりすることも、面白いなと思っています。

「雑誌で見て、お店に行って、流行りの服を買って、着る」だけの時代から、カテゴリやテイストなど、ファッションという言葉が意味するコト/モノの幅はデジタル化によってますます広がり、細分化していく中、市川さんのファッションの楽しみ方のスタンスは「Give it a try」。どんなものでもまずは取り入れてみること。

やっぱり、ファッションは楽しいもの。これはファッションに限らずですが、少しでも気になることがあれば、積極的に手を出してみるみるといいと思います。やってみてダメなら、それはそれ。もちろん、中には「なんだこれ」っていうものもありますけど(笑)、それもまた楽しいんです。

ファッションは変わっていくけれど、その本質は変わらない

講座の最後は質疑応答の時間。「雑誌は読む?」という質問には「正直、ほとんど読まなくなっちゃいました。流行りの情報なんかは海外のファッションECのメルマガを毎日見ているとほぼ追えるな、なんて思います(笑)」、「情報収集の方法は?」という質問には「お気にいりのメディアをRSSでひたすらチェックしています。ファッションに限らず国内外のスタートアップの取り組みを追うのはもはや趣味ですね(笑)」と回答。暮らしの“デジタル化”も徹底していて、紙の書類は必ずスキャンしてすべてオンラインストレージの「DROPBOX」や「Evernote」に保存、着ない洋服はトランクルームを管理できるアプリ「Sumally Pocket」へ預けているそう。

フリーランスで仕事をしていることもあり、基本的にはスマホとPCがあればどこでも仕事ができるようにしています。そのためには、どこにいても、どのデバイスからでも同じ情報を確認できるようにしておくことが必須。データにできるものはすべてデータ化して、クラウド上で管理するようにしています。

そして、CLASS ROOMお決まりの質問、「市川さんにとってよい暮らしとは?」という問いには、「笑顔のある暮らし」との答えが。デジタルによってファッションが変わっていっても、“楽しむ”というスタンスに変わりはない。そんな素敵な言葉で講座は締めくくられました。

>>交流会の様子はこちら

市川渚(ファッション・コンサルタント)

ファッションデザインを学んだ後、海外ラグジュアリーブランドのPR、有名クリエイティブエージェンシーのコミュニケーションマネージャーを経て、2013年に独立。ファッション、ラグジュアリー、IT関連企業を主なクライアントに、ファッションとテクノロジー、デジタルを繋ぐ、フリーランスのファッション・コンサルタントとして活動。他にも、CAMPFIRE「CLOSS」顧問、ウェブメディア「DiFa(ディーファ)」の立ち上げや、京都精華大学非常勤講師、コラム執筆、ファッション関連サービス/ウェブサイト/キャンペーンのクリエイティブディレクション、セミナー講師など活躍は多岐にわたる。

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