LUMINE MAGAZINE

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ART

SHINJUKU EAST SQUARE

街を映し、人をつなぐ。
新宿駅東口にアートな広場が誕生

2020.07.27

2020年7月19日、新宿駅東口の駅前に新しい広場が生まれました。広場の主役は、大規模なパブリックアート。地面には花をモチーフにしたカラフルなペインティングが描かれ、その中心には、「花を持った少年」をモチーフにした高さ約7mの彫刻がそびえ立ちます。

ルミネはこれまでに、LUMINE meets ART AWARDや展覧会、アートフェアの開催など、アートを通じて「新たな文化体験」をつくり出してきました。今回の取り組みは、ルミネにとって初めての“街なかを舞台にしたアートプロジェクト”です。

パブリックアートを手がけたのは、ニューヨークを拠点に活躍する気鋭のアーティスト・松山智一さん。松山さんは、アートの名作や日常の誌面にあふれる情報など、新旧の表現からモチーフを重ね合い、独特の世界観を描くペインティングで知られています。西洋と東洋、古典とポップカルチャーなど相反するものを組み合わせ、ひとつの作品としてまとめあげるのです。

新宿もまた、さまざまな歴史やカルチャー、人種が交差する街。今回の作品は、松山さんの表現手法と新宿の個性が共鳴して生まれました。

松山さんはこの場所からなにを感じ取り、表現したのでしょうか? 作品に込めた想いについて伺いました。

マイナスをプラスに転化させる

大学時代によく新宿で遊んでいたんですが、この東口の空間は、誰もが知る「活用されていない場所」といった印象でした。同時に、喧騒感があふれるとても新宿らしい場所です。

今回のプロジェクトを考えるにあたっては、ミクロな観点とマクロな観点がありました。
ミクロな観点では、カオス的ですごく東京らしさがあるものの、あまり活用されてこなかった場所であること。
マクロな観点では、新宿が世界一の交通量があり、国内外から商業・文化・飲食などを求めて人々が訪れる「グローバルなハブ」であること。それと同時に、いまだにローカルカルチャーが根付いている街でもあります。

ミクロな観点をマクロな観点に転換できれば、ここをすごくポテンシャルがある、世界に発信できる場所にできるんじゃないかなと思ったんです。なので、この場所がもともと持っていたネガティブ要素をいかにプラスに転化させるかが一番のポイントでしたね。

都会に出現させたアート・オアシス

広場全体のコンセプトは「Metro-Bewilder」(メトロビウィルダー)。都会を意味する「Metro」(メトロ)、自然を意味する「Wild」(ワイルド)、当惑を意味する「Bewilder」(ビウィルダー)の3つを合わせた造語です。

コンセプトを練るために、まずは新宿の個性をあらためて見ていきました。喧騒があって、人工的であり、なおかつとにかく人が多い。それから、歌舞伎町、二丁目、ゴールデン街と、いろんな顔を持ちますよね。
そういった、世界的に見てもユニークで非常に「都市的」な特徴を、対局のものをもってくることでその個性を引き立てようとしたんです。それが、自然。都市的なものと自然を、驚きをもたらすかたちで融合させました。

地面にはカラフルな植物の装飾柄を交えたランドスケープが描かれていたり、中央の彫刻にも植物をモチーフにした装飾柄があったり。都会のなかにすごく人工的なアート・オアシスみたいなものをつくることによって、訪れる人をドキドキさせたいと考えました。

新宿の建物って、古い雑居ビルから新しいオフィスビル、ユニークな形のものまで統一性がないし、看板もたくさんありますよね。それが街のキャラクターのひとつにもなっている。広場をつくるにあたっては、少し彩度を上げないとそんな色とりどりの街に埋もれてしまう可能性もあったので、カラフルな人工庭園みたいにしたんです。彫刻も鏡面仕上げにして、周囲のビルや看板の色が映り込むようにしたら、より際立つかなと考えました。

それから、空の色も。夕焼けのときは赤くなるし、曇りだったらグレーっぽくなり、晴れているときはギラッと輝くんです。そうやって周りの環境を模するというか、引き込むようにつくったので、街と一体化してひとつの作品になる。もちろん、自分の姿も映り込みます。

アートを体験しながら憩いの場としても使えるように、機能性も重視しました。彫刻の周囲は巨大な円卓になっていて、スツールが配置されている。ベンチもあって気軽に腰掛けることができます。

3歩戻っては1歩進むことを繰り返してきた

今回のお話をルミネさんからもらったのは、約2年半前です。具体的なリクエストがあったわけではなく、「こういう概念があって、なにかできれば」っていう、すごくいい抽象論から始まりましたね。

きっと僕は、「こういうプランがあるので、そこに作品を乗っけてください」っていうような感じだったら引き受けていないと思います。というのも、アートって“お化粧”になっちゃうと面白くないんです。誰かがつくったものにファンデーションを塗って、リップを塗ってという作業だったら、言ってしまえば誰でもできてしまうんですよね。化粧をほどこすモデルの体格づくり、つまり、プロジェクトのコンセプトづくりから携われるっていうことに意味があって、そうでないとここまで深度のあるものにならなかったと思います。

大きなプロジェクトを進めるなかで一番面白いのって、実は采配なんです。誰がなにを考え、どう動くかっていう、詰将棋みたいなところがあって、僕は要所要所で可否を判断して、GOサインを出さないといけない。そのときに、相手と「チームの一部になってほしい」「一緒にやりましょう」っていうキャッチボールができるかが、最も重要なポイントです。

今回も本当にいろいろありましたが(笑)、3歩下がって1歩進むみたいなことを繰り返しながらここまでやってきました。長期間だったんですけど、それゆえに非常にいい形になったと感じています。意見を出し合って、多少ぶつかったりすることもありましたが、みんなの想いが入っていけばいくほど最後はブワーッと盛り上がっていく、そんな感じでした。

スペシャルなものではなく、日常の一部になってほしい

彫刻は、花の尾っぽがついているような形状をしていることもあり「花尾」というタイトルにしました。彫刻の下にあるキャプションは、漢字で「花尾」としているんですが、その下の英語は「Hanao-san」。あえて“さん”をつけているんです。日本って、モヤイ像とかハチ公とか、呼びやすい名前をつけることでアイコニックな待ち合わせ場所になることが多いですよね。それらと同じように、この彫刻も「花尾さんの前に集合ね」というふうに定着してくれたら。

やっと完成を迎えることができて、今はドキドキしかありません。
崇高なアート作品の言語を用いながらも、誰でも介入可能な言語にしたかった。早く街にとって当たり前の存在になってほしいんだと。ここでちょっと休もうとか、待ち合わせをしたりとか、カップルが喧嘩したりとか。
この場所が、新宿で紡がれる日常の営みの中枢になってくれることを祈っています。

<プロフィール>
松山智一/Tomokazu Matsuyama
1976年岐阜県生まれ、ニューヨーク在住。NY Pratt Instituteを首席で卒業。ペインティングを中心に、彫刻やインスタレーションも手がける。世界各地のギャラリー、美術館、大学施設等にて個展・展覧会を多数開催。また、LACMAやMicrosoftコレクション等に、作品が多数収蔵されている。

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