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ささやかな日常を、前向きに。1年のはじまりを彩る新ビジュアル

2020.12.26

確かなものが見えないなか、明日への想いを携えて少しずつ日々を歩んできた。新年のはじまりは、盛大な祝祭ではなく、そんな日常の続きなのかもしれません。
2020年から2021年へ、ルミネの年末年始をかざるビジュアルは、イラストレーターのAZUSA IIDAさんとのコラボレーションで生まれました。展示を中心に、広告や雑誌など、いろいろな活動をしているAZUSA IIDAさん。そのバックグラウンドや、今回のビジュアルに込めた想いを聞きました。

展示活動を大切にする理由

― イラストレーターを目指そうと思ったきっかけはありましたか?

小さいころから絵を描くのが好きでした。父がイラストレーターで、いつも机の向かい側に座っては真似をして描いていたんです。そういう環境で育ったからか、なにか転機があってイラストレーターへの道を志したわけではなく、その楽しさや憧れから自然と目指している自分がいました。

― いろいろなフィールドで活動されていますが、特に展示活動を大切にされていると伺いました。

作品をつくるときの自分の熱量ってなににも比べられないというか、一番大事にしている部分で。展示は、想いを込めた自分の作品を見てくれる人の顔を直接見ることができたり、コミュニケーションをとることができる唯一の場所だからです。

展示ではいつも、会場の空間を含めた全部が表現だと考えているので、「ここだったらなにができるかな」と考えるところから制作がはじまります。だから、毎回表現メディアが違うんですよね。絵画の場合もあれば、イラストを刺繍にしたり、彫刻作品をつくったこともあります。

2020年に行った展示では、鏡を使った作品をつくりました。その会場は半分が洋服屋さん、半分がギャラリーという空間で、作品を見る人自身の姿や、洋服が並んでいたりする風景を作品のなかに取り込めたら楽しいんじゃないかなと考えたんです。

展示ごとに作品の雰囲気がガラッと変わるからか、一度別の展示に来てくださった方に「え、こんなこともやってるの? 本当に同じ人?」と言われたこともあります(笑)。そういうアプローチの仕方を、自分でも楽しんでいる感じです。

左《Popping》、右《Suri》 いずれも個展「MIRROR,MIRROR ON THE WALL.」より/2016年

ビジュアルに込めたのは“日常を前向きに過ごすこと”

― これまで、どのように活動の幅を広げてきたのでしょうか?

初めて個展をやらせていただいたのは2016年でした。自分が描いたものを人に見てもらうのが初めてだったので、先のことを考えてというよりは、目の前の展示をやり抜こうという思いで作品をつくりました。

そこからはじまって今の私があるのは、たくさんの方々との出会いがあったからだと思います。
作品を見てくれた人との出会いが、どんどん新しい活動につながっていきました。頑張って切り拓いてきたという気持ちももちろんありますが、1年1年、少しずつ更新してきたような感覚が強いですね。

今回のルミネさんとのコラボレーションも、そのひとつです。お話をいただいたときは本当にびっくりしました。

― 今回のビジュアルには、どのような想いを込めたのですか?

2020年は、毎日心が塞がるようなニュースばかりでしたよね。だからこそ、遠い未来を考えるというよりは、1日1日を前向きに過ごしていけたらなって。4つの空間に人物を入れて、彼女たちの“今”や、なにげない生活の1コマを表現しました。
ルミネさんの「日常のなかで一歩前進しようと思えるようなものにしたい」というお話にも共感したので、私の想いとルミネさんの想いをミックスしたかたちです。

― ポスターやサイネージとして不特定多数の人の目に触れる機会になりますね。展示とはまた違う感覚なのでしょうか?

もちろん場所や見る人という条件は大きく変わりますが、ゼロから描いた作品なのは変わらないことなので、ビジュアルが展開される期間は、展示をしているような感覚で過ごすと思います。

私のことを知らない方たちにも見てもらえる今回のような経験は、ほとんど初めてなんです。私にとって、絵を描くことは社会とつながる手段でもあるので、駅という、いろんな人が通る場所で、社会にも、道行く誰かにもプラスになるものにできたらいいなという想いを込めて描きました。ひとりでも多くの人に見てもらい、心に残るものにしたい。こういう機会をいただけてとっても嬉しいですし、ずっとドキドキしています。

個展「artists」より/2018年

人物を描くときは、その人の暮らしを想像する

― スタイリッシュでビビッドなIIDAさんのイラストは、ストリートやファッションと親和性が高いように感じます。今の作風につながるルーツはあったりしますか?

小さい頃からずっと好きなのは、東映アニメやクレイアニメです。なかでも、「ウォレスとグルミット」シリーズを手がけているニック・パークという方の作品は繰り返し観てきました。クスッと笑ってしまうようなストーリーや、キャラクターの仕草、表情などに影響を受けているかもしれません。

あと、私は人物を描くことが多いのですが、その人のストーリーをたくさん想像して、感情移入しながら描いています。

― 人物を映像でイメージするのですか?

そうですね。たとえば、その人の職業や性格、どういう服を着て、どこに出かけて、これまでどんな日々を過ごしてきたのか。それを踏まえて、表情やポージングを考えるのがすごく好きなんです。たぶん妄想が好きなんでしょうね(笑)。

絵に直接表れてこない設定を考えて、日常の1コマを描くという手法は、クレイアニメと通じるところかもしれません。

左から《anxiety》《mysterious》《strength》《will》《imagine》 個展「TRUNK」より/2020年

チャレンジし続け、一つひとつ実現していきたい

― 今後の活動についてお聞かせください。

作品を“どこまで自分の手でつくれるか”ということにこだわり続けていきたいです。たとえば、2020年3月の展示「TRUNK」では、木材をカットして、トランクをつくるところから制作をしています。

活動していくうえでは、自分が興味のあることを形にしていくことが第一。立体や映像作品の制作、海外での展示など、挑戦してみたいことがたくさんあります。

これまで、新しい挑戦をするたびに生まれた出会いや経験が次のことにつながってきました。今回のビジュアルのテーマにもありますが、前向きに一歩一歩明日に向かう、そういう気持ちで表現の幅を広げ、一つひとつ実現していきたいです。


<プロフィール>
AZUSA IIDA
1991年生まれ。2016年にMANHOODgalleryにて初個展『A MOMENT展』を開催して以来、おもに人物をモチーフとしたさまざまな表現方法で展示を行っている。また、広告やCDジャケット、雑誌などのイラストレーションや、ファッションブランドとのコラボレーションなど、さまざまなフィールドで活動中。

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