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物事を別のなにかに「見立て」る楽しさ。視点を変えれば世界はもっと輝き出す

2025.08.28

2025年秋のニュウマンのシーズンビジュアルは、春夏に引き続き「ニュウマン的アートミュージアム」がテーマです。秋らしいシックな空間のなか、色とりどりの糸が絡み合い形を成していく様が、美しくも奇妙でつい見入ってしまう今回の作品。クリエイティブディレクターを務めたSIMONEの渡辺琢磨さんに、ビジュアルに込めたメッセージや制作の裏側について伺いました。

日常の風景や物事を別の視点から見てみる

街の中心である駅にありながら、日常+αの体験ができる場所——。
そんなニュウマンの個性に焦点を当てたシーズンビジュアルは、春夏に続き「ニュウマン的アートミュージアム」がテーマです。日常のなかにある象徴的なものを別の視点で見ることで新たな気づきをうながす表現は、まさに“アートミュージアム”がもたらす体験そのもの。同時に、「そこに行けばなにかがある」というニュウマンへの期待感を高めてくれます。

“別の視点で見てみる”ための方法として提示してきたのが、春は「置き換え」、夏は「再解釈」。そして今回の秋は「見立て」です。そのうえでビジュアルの主役となったのは「糸」。無数の糸が放射状に広がり、交差し、万華鏡のように形を変え、やがてたおやかな円錐形のフォルムへと収束していきます。はじめは白だった糸が徐々に色づいていく表現も印象的で、さまざまな刺激を受けながら変化していく心のうちを表しているかのよう。ラストのくるくると回転しながら形をなしていく姿は、まるで意志を持った糸のダンスを見ている気分にさせられます。

複雑な世の中を糸の動きで表現

今回、渡辺さんがコンセプトに据えたのは「Wit / Humor / Weird」です。「美しい反面、どこか不思議で奇妙で、つい見入ってしまうような作品に仕上げたい」という思いで制作に臨みました。糸というモチーフは「複雑な世界」を表しているといいます。

「世の中は複雑で、僕らはいろいろなものにがんじがらめになっている側面もあります。でもそれは、見ようによっては美しい“パターン”と捉えることもできる。結局、世界の見方は自分しだいです。そのひとつとして、混沌としている様を踊っているような糸の動きで表せたら、少し気分が高揚するのではないかなと考えました」

良いことも悪いことも、自分のフィルターを通して見る。さまざまな物事を自分を軸にして賢く楽しむ。そんなスタンスで日々を送ってほしいという願いを込めたビジュアルに合わせ、BGMにはクラシカルなサウンドをチョイス。「効率重視でスピーディーな現代的な暮らしのなかで、自分の心地よいリズムというものをちゃんとつくってあげたくて」と渡辺さんは話します。ゆったりと、でもリズミカルで耳馴染みの良い音楽が心地よい没入感を生み、映像の最後に映し出される「Wonder Waltz」というメッセージが、物事を別のなにかに見立てる楽しさに気づかせてくれます。

CGの制作は、春のシーズンビジュアルと同じく、韓国のクリエイティブスタジオ・HERE Creativeが担当しました。依頼の決め手について、渡辺さんはこう話します。

「今回のビジュアルで表現したかったことは、CGでないとできない非現実的な動きでありながら、実際に映っているものにはリアリティがほしかったんです。そこで、オブジェクトのディティールや質感をしっかりとつくり込める方で、かつそれを美しく印象的に動かす表現力がある方にお願いしたいと考えていました」

CGの制作中の画面キャプチャ

一方のHERE Creativeは、今回のコンセプトを聞いたときの印象について、「スタイルの選択がユニークでコンセプトに込められた思いにも共感でき、とてもワクワクしました」とコメント。糸の動きには特にこだわりながら制作を進めたと話してくれました。

「これまでチャレンジしたことのない表現だったので、技法を調べたりシミュレーションをする過程がおもしろかった反面、ビジュアル化するのには苦労しました。糸は細いので、3Dで表現すると弱く見えたり、印象に残りにくかったりしてしまうのです。そのため、配置や動きにリズム感を持たせ、1フレームごとに視覚的におもしろくなるよう心がけました」

1本の糸がより合わさり、形を変え、最後にはまるでドレスをまとってダンスをしている人のように見えてくる。まさにワルツを思わせる動きの一つひとつが見どころになっています。

糸の微細な毛羽立ちまでつくり込まれたディテールにも注目

美しく奇妙な世界に隠されたヒント

今回のビジュアルについて、「春夏以上に、ユーザーの方に受け取り方を委ねる部分が大きいのでは」と話す渡辺さん。そこにはこんな思惑も込められています。

「パッと見て明らかにポジティブな表現というよりは、ちょっと不思議で意味深な感じがあるので、どう感じるかは見る人しだいになるのかなと。それでも、複雑な世の中が見ようによってはこんなに楽しくなるよ、というメッセージを感じていただけたらうれしいです」

見慣れたものも、少し違った角度から見てみるとまったく知らない一面が見えてくる、そんな頭のスイッチが切り替わるきっかけを与えてくれるようなこの秋のシーズンビジュアル。美しくてドラマチック、それでいてどこかダークで奇妙な世界に没入し、新しい季節を楽しむヒントを見つけてみてください。


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Creative Director:Takuma Watanabe(SIMONE INC.)
Video Director:Shintaro Kamei(SIMONE INC.)
Art Director:Mayuko Ishida, Naoki Mizobe(SIMONE INC.)
Producer:Fumika Ochi(SIMONE INC.)
Production Manager:Haruka Tokoi(SIMONE INC.)
Creative & Production Agency:HERE CREATIVE
3D Artist:DETA
Retouch:VITA INC.


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