LIFESTYLE

きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.22(選者:小谷実由さん)
2025.08.08
愛読家として知られるモデルの小谷実由さんが、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を紹介します。
今回のテーマは「Mystic Nocturne -叙情的なロマンティック」です。「叙情的」とは、感情や気持ちがじんわりとにじむような雰囲気や文章などを表す言葉。小谷さんがセレクトした2冊のエッセイには、愛おしい日常のなかにある、それぞれのロマンティックがあふれています。
今回のテーマは「Mystic Nocturne -叙情的なロマンティック」です。「叙情的」とは、感情や気持ちがじんわりとにじむような雰囲気や文章などを表す言葉。小谷さんがセレクトした2冊のエッセイには、愛おしい日常のなかにある、それぞれのロマンティックがあふれています。

『私はそうは思わない』著:佐野洋子(筑摩書房)
ご自愛、自分を大切に。そんな優しい言葉をたくさん耳にすることができる時代になりました。ストイックに突き進むことは時に苦しい。努力が結果を生んだり、頑張ることで見えてくる世界があることも事実だけど、そうすると自分を労わることを忘れてしまう。自分に優しくしたいけど優しくすることが難しい。でも、ご自愛や自分を大切にするということは、ただ動きを止めて休息をとることだけではない。自分に優しくする方法ってそれぞれに違うもの。大事なのは自分が納得して日々を進めることができること。自分の考えに自分が一番賛同できること。
『100万回生きたねこ』などを手がけた絵本作家 佐野洋子さんのエッセイ集。
「私は気分転換などしない。気分転換する必要はない程陽気で幸せな人なのではない。ほとんど常にかぎりなく滅入っている。おまけに体が怠けもので、気だけせわしないので、ごろりと横になって先から先へと心配ばかりしていて体が休まって心休まる時がない。趣味もないしお酒ものまず歌もうたわない。何が人生楽しいかと言われるとそれが楽しくてやめられない程千年も万年も生きたい。気分転換など自分でするものだと思っていない。あちらからやって来る。(本文より)」
そう言い切る姿は勇ましく、風通しがいい。自分の心地よさは自分が納得して進む道に生まれるものであり、歩を止めずとも自分を励まし労わることができるのかもしれない。
『100万回生きたねこ』などを手がけた絵本作家 佐野洋子さんのエッセイ集。
「私は気分転換などしない。気分転換する必要はない程陽気で幸せな人なのではない。ほとんど常にかぎりなく滅入っている。おまけに体が怠けもので、気だけせわしないので、ごろりと横になって先から先へと心配ばかりしていて体が休まって心休まる時がない。趣味もないしお酒ものまず歌もうたわない。何が人生楽しいかと言われるとそれが楽しくてやめられない程千年も万年も生きたい。気分転換など自分でするものだと思っていない。あちらからやって来る。(本文より)」
そう言い切る姿は勇ましく、風通しがいい。自分の心地よさは自分が納得して進む道に生まれるものであり、歩を止めずとも自分を励まし労わることができるのかもしれない。

『東京日記1+2 卵一個ぶんのお祝い。/ほかに踊りを知らない。』著:川上弘美(集英社)
毎日があっという間に過ぎる。毎朝聴いているラジオで、週に一度の番組がこないだ聴いたばかりのはずなのにもうやっている。この一週間の間に、自分はいったい何をしていたんだろう。何もしていなかったわけではない、はず。現に毎日同じ時間に起きて、朝食を食べて、ハッと先週と同じ皿洗いをしているタイミングでもう一週間経ったのかとラジオに耳を傾けているのだから。ただ、それだけじゃないはずなんだ。何か覚えていたらとても自分に役に立つようなことをきっとしているはず。そう思うと日記を書いたほうがいいのかなと思う。役に立つって便利になるとかじゃなくてもいい。ただ、思い出したらニヤリと笑えるような、そんなほのあたたかさのある瞬間を覚えていたい。
作家 川上弘美さんが、スタイルや行数も、縦横無尽に連ねる日記集。日記というと、どうしても毎日書かなくてはいけないような気がしてしまう。でも、この本にはひと月の間の数日間の日記が約六年分収められて、読んでいるこちらも軽やかな気持ちで日記を書いてみたくなる。こんなふうに書くことができたら、この本のように頭の中の密やかな楽しみや自分だけにしかわからない愛おしい着眼点を教えてくれる心強い存在になるかもしれない。なんてことない日にも、目を凝らせば思わず口元が緩んでしまうような何かが潜んでいるはずだ。
作家 川上弘美さんが、スタイルや行数も、縦横無尽に連ねる日記集。日記というと、どうしても毎日書かなくてはいけないような気がしてしまう。でも、この本にはひと月の間の数日間の日記が約六年分収められて、読んでいるこちらも軽やかな気持ちで日記を書いてみたくなる。こんなふうに書くことができたら、この本のように頭の中の密やかな楽しみや自分だけにしかわからない愛おしい着眼点を教えてくれる心強い存在になるかもしれない。なんてことない日にも、目を凝らせば思わず口元が緩んでしまうような何かが潜んでいるはずだ。

小谷実由
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、さまざまな作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。猫と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。著書にエッセイ集『隙間時間』(ループ舎)。J-WAVE original podcast「おみゆの好き蒐集倶楽部」のナビゲーターを務める。
2025年8月18日に、2冊目のエッセイ集『集めずにはいられない』がループ舎より刊行予定。
https://www.instagram.com/omiyuno/
※該当書籍の取り扱いは各店舗へお問い合わせください
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■あわせて読みたい
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2025年8月18日に、2冊目のエッセイ集『集めずにはいられない』がループ舎より刊行予定。
https://www.instagram.com/omiyuno/
※該当書籍の取り扱いは各店舗へお問い合わせください
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