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800年を超える伝統を今も守る「サンタ・マリア・ノヴェッラ」の哲学

2026.10.13

1221年にイタリア・フィレンツェで誕生し、世界最古の薬局と称される「サンタ・マリア・ノヴェッラ(Santa Maria Novella、正式名称:オフィチーナ・プロフーモ・ファルマチェウティカ・ディ・サンタ・マリア・ノヴェッラ)」。植物由来の原料と伝統的な製法にこだわったフレグランスやホームケアコレクション、スキンケアアイテムで世界中の人々から支持を集めています。ブランドが今も昔も大切にしている価値観について、サンタ・マリア・ノヴェッラ・ジャパン株式会社 マーケティング・マネジャーの稲垣さんに伺いました。

修道士が薬草を育て、医薬品を作ったのがはじまり

「サンタ・マリア・ノヴェッラ」の誕生は、今からおよそ800年前に遡(さかのぼ)る。1221年にイタリア・フィレンツェに設立されたサンタ・マリア・ノヴェッラ修道院がブランドの起源だ。同院に所属した12人のドミニコ会の修道士が、院内の診療施設で使用する薬草を育てるための植物園を設立。軟膏(なんこう)や鎮静剤などの医薬品の製造をスタートした。

1381年の記録では、ダマスクローズから蒸留されたローズウォーターをはじめとするアロマウォーターが販売されていたことがわかっている。当時は主に医療目的で使われていて、ペストが流行した際には消毒のために用いられたほか、ワインで希釈し、飲み薬として服用されていたこともあったとか。

ルネサンス期のイタリア・フィレンツェで巨万の富を築いた名門一族、メディチ家との深いつながりもある。例えば、16世紀、カテリーナ・デ・メディチがフランス王家のアンリ2世と結婚する際、贈り物として調香されたのがサンタ・マリア・ノヴェッラの「アクア デッラ レジーナ(王妃の水、の意)」のフレグランスだった。みずみずしいシトラスが印象的なフレグランスで、現在もブランドを代表する香りのひとつとなっている。

17世紀になると、正式な薬局として一般向けの販売が許可されるように。トスカーナ大公国のフェルディナンド2世の治世下で「王家御用達製錬所」の称号を授与され、メディチ家の「公式供給者」となった。

19世紀にトスカーナ大公国がフランスに併合されると、ナポレオンによる修道会解散令により、存続の危機に。しかし、薬局長が自費でフランス政府から薬局を買い取り、事業が途切れることはなかったという。やがて近代医学の発展とともに伝統的な薬草製剤の需要が減少すると、化粧品とフレグランスを中心とする事業へと転換。1871年には修道会から独立した民間企業となった。

現在は世界30カ国以上で展開され、オーデコロンやポプリ、キャンドル、スキンケアアイテムなど、幅広いアイテムが多くの人たちに愛されている。いずれも気品あふれる香りとデザインで、ギフトとしても人気が高い。

ポプリや素焼きのポットは、長く受け継がれる伝統的なレシピ、製法をもとに作られている

トスカーナ地方の自然や伝統技術、文化を守り、伝える

サンタ・マリア・ノヴェッラでは、800年にわたり受け継がれた知恵に敬意を払い、現在も伝統的な製法を守り続けている。アーカイブの中でも特に重要とされているのが、1743年に当時の薬局長が記した手書きのレシピで、現在製造されているアイテムにもこのレシピに則(のっと)ったものは多いそう。ブランドを象徴するアイテムのひとつであるポプリも、花びらやつぼみ、葉、根などを独自にブレンドするという当時のレシピに沿って作られている。

「すべての製品の原料のうち、70%以上が天然由来。ブランドを代表するポプリもトスカーナの丘陵地帯で育った草木や花、つぼみが原料になっています」(マーケティング・マネジャー 稲垣さん)

また、メイド・イン・イタリーにもこだわり、取引業者の90%以上(金額ベース)がイタリアの企業。イタリア、特にフィレンツェの伝統的な文化やクラフツマンシップを現代に届けることを使命としている。

「かつては薬壺(つぼ)や水差しとして用いられ、現在はポプリ入れや花器として楽しんでいただけるセラミックベースは、トスカーナ地方で長く受け継がれている焼き物の技術で作られた陶磁器。フレグランスのガラスボトルもイタリアで作られています。ブランドのルーツとなる土地の原料を使い、地元の工房の職人の手仕事によって生まれたものを手に取っていただくことで、フィレンツェの文化や価値観を感じていただけたらと願っています」

2025年秋にニュウマン高輪にオープンした店舗では、イタリア直輸入のベルベット素材の壁紙や床のタイル、重厚な木製家具がクラシックな雰囲気を醸し出す。そして、見た目にも美しいフレグランスやスキンケアアイテムの数々、素焼きのポット、ポプリなどが優雅にディスプレイされている。イタリアに古くから根づく「香りを暮らしのなかで楽しむ」という習慣が、空間全体から伝わってくる。

「成分もそうですが、パッケージデザインもボタニカル柄をはじめ、自然のものがもつ造形美にこだわっています。オードパルファム『ジャルディーニ メディチェイ』(一番上の写真)のパッケージは本の形をしていますが、18世紀にハーブの精油を木箱に入れて保管していたという史実があり、そのデザインから着想を得たものです。購入後はご自宅でオブジェとして飾る方や、内側の台紙を取り外して小物入れとして使う方も多くいらっしゃいます」

ニュウマン高輪 South 2階の店舗。棚の上段に飾られているセラミックベースが、トスカーナ地方の伝統的な技法によるもの。購入も可能

目の前の利益よりも、長い目で見て大事なことを優先

サステナビリティの面では、国連と民間企業・団体が協力し、持続可能な社会を築くための世界的な取り組み「国連グローバル・コンパクト」に参加。人権、労働者の権利を尊重し、環境保全に配慮しながら、持続可能な未来を目指している。しかし、稲垣さんによれば、サンタ・マリア・ノヴェッラにはもともと創業の頃から今でいうサステナビリティに近い価値観が根づいていたという。例えば、800年の歴史の中で、動物実験を一度も行っていないこと。近年では一般的な価値観だが、昔は決して当たり前ではなかったことだ。

「もともと修道院がルーツですので、すべての命を大切にする、という発想に基づいています。800年前、疫病で苦しむ人たちを修道士たちが薬草や軟膏で救おうとしたときと変わらず、『人々の心身を癒やす』という思いはブランドの根底にある大事な部分です」

近年にはCO2の排出量を少しでも抑えるために、物流手段の一部を航空便から船便へと切り替えた。航空便と比べると所要時間が圧倒的に長く、天候などに左右されやすいというデメリットはあるが、現代社会に浸透している効率最優先の価値観とは一線を画す姿勢の表れといえるだろう。

「800年以上存在しているブランドですから、短いスパンのパフォーマンスで一喜一憂しないところはあると思います。ときには手間やお金がかかったとしても、長い目で見たときに、それよりも大事なものがあると判断すれば、コストは惜しみません」

これまでに受け継いできた歴史や伝統へのリスペクトを忘れずに、本質を丁寧に正しく届ける。それが、サンタ・マリア・ノヴェッラの哲学なのだ。

「真のラグジュアリーとは物質的に豊かであることだけではありません。内面を癒やし、満たすことも大切です。自分の利益だけを追求するのではなく、他者とのつながりや未来へのつながりを重んじてこそ、本当の意味で幸せになれるというのが私たちの考え方です」

天然の花びらやフルーツをあしらったワックスタブレット。フィレンツェの工房で一つひとつ手作業で仕上げられている。クローゼットなどに吊(つ)るしてルームフレグランスとして使用

イタリアではアーティストの支援活動にも注力

物質的な価値だけでなく、心の豊かさを届けるという面でも、今後はさまざまな芸術や文化活動のサポートやコラボレーションも行っていきたいと考えているそう。

イタリアでは先駆けて取り組みを行っており、フィレンツェの本店では、昨年から今年にかけて現地で開催された現代美術家デイヴィッド・ホックニーの特別展に協賛し、店内で作品を展示。また、今年はやはりフィレンツェで行われたマーク・ロスコ展に連動した特別企画として、モートン・フェルドマンの楽曲「ロスコ・チャペル」を体感できる聴取室の特別展示を実施した。

「中世ヨーロッパでは教会はアカデミックな研究機関でもあり、科学や芸術の土台を支える存在でした。ミラノからフィレンツェに戻ったレオナルド・ダ・ヴィンチがサンタ・マリア・ノヴェッラ修道院に滞在して制作をしたという記録も残っています。こうした歴史や伝統を感じていただける機会をプロダクト以外でも増やし、サンタ・マリア・ノヴェッラならではの魅力を伝えていけたらと考えています」

紙のお香「アルメニアペーパー」はイタリアの伝統的な香りのアイテム。燃やして香りを立たせるほか、そのまま引き出しや財布などに入れても。本場イタリアではスーツの内ポケットに忍ばせる男性もいるとか

■サンタ・マリア・ノヴェッラ
https://jp.smnovella.com/

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※本記事は2026年9月30日に『&Illuminate』に掲載された記事を再編集しております。
※情報は記事公開時点のもので、変更になることがございます。

Text: Kaori Shimura, Photograph: Hiromi Furusato, Edit: Sayuri Kobayashi

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