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CLASS ROOM

“好き”から始まった、花と向き合う日々。

2020.12.02

のんびり走る2両編成の路面電車、世田谷線。12月のLUMINE CLASS ROOM LIVEでは、その松陰神社前駅からすぐの場所にあるフラワーショップ「duft(ドゥフト)」のオーナー、若井ちえみさんをお迎えします。講座のテーマ「花のある暮らしのすすめ」へとつながる、花が持つ尽きることのない魅力やフローリストとして大切にしていることを聞きました。


思いがけず出会った花の魅力

実は、花に興味を持つようになったことに大きなきっかけはないんです。もともとは美容師だったのですが、10年ほど前、本当にやりたいことを探すために退職してフリーターになったんですね。掛け持ちでアルバイトを始めて、そのなかのひとつが花屋でした。

花を飾る習慣のない家庭でしたし、特に花が好きだったわけではなく、たまたま求人を見つけて入ったバイト先という感じで。でも続けていくうちに、仕事がすごく楽しくて、自分は花が好きなんだと気づきました。

「お花って生きてるんだなあ」と感じる瞬間があったり、それから、花の色彩の面白さにも惹かれました。美容師の仕事もそうでしたが、鮮やかな色を感じられる仕事ってけっこう少ないんじゃないかと思って。お花を仕入れるときは10本単位が基本なんですけど、同じ品種でもその10本が全部違う表情を持っているんです。人間と同じですね。

こんなに楽しいんだったら仕事としてずっと続けられそうだなと思い、ほかのアルバイトは辞めて花屋だけに絞ることに。そのあといくつかの店を経験して、2016年5月、duftをオープンしました。

飾るよろこびを知ってもらうために

duftを開いてから約4年半、変わらないのは「お花を日常的に飾る人が増えたらいいな」という思いです。花を飾ったことのない方でも興味を持ってもらえるように、ちょっと変わった見た目のものも揃えています。

それから、持ちがいいこともセレクトの視点のひとつ。というのも、初めて飾ったお花が1日や2日でだめになってしまったら、果たしてもう一度花を飾りたいと思ってくれるのかなって。そう考えたときに、ある程度持ちがいいもののほうが、花を飾る楽しさを知ってもらえると思ったんです。

ただ、お花の魅力は日持ちだけでは絶対にないので、たとえ日持ちがしなくても魅力がある花も、もちろん仕入れています。なにより、市場で見たときに素敵だなと感じる気持ちが最優先。お客さまにおすすめするものだから、自分が「いいな」思えることを大事にしています。

飾りたいと思った花を選んでほしい

お店にいらしたお客さまには、普段お花をよく飾るか、どんな花瓶を持っているかなどを聞き、なるべく深くコミュニケーションをとるようにしています。でも、自分の意見を押しすぎるのは違うと思っていて。私はアーティストではないので、まずお客さんの想いや要望があり、それをベースにしたうえで、私なりのイメージを織り交ぜながら提案する。だから、花束やブーケであってもゼロからつくることはないですし、個展を開きたいとかも全然思わないんですよね。

特に初心者の方は「なにを選んだらいいかわからない」とか「素敵にできない」と考えすぎてしまうケースが多いのですが、自分が飾りたいと感じたお花が一番いいと思います。
どうしても決めきれない場合は、一輪挿しや、口が狭い花瓶に1本だけ飾ってみるのがおすすめ。1本あるだけで、部屋の空気ががらりと変わりますよ。難しく考えずに試していただけたらと思います。

生産者に会いに行って気づけたこと

お花屋さんのなかには、お花がどうやって土から生えていて、どういうふうに育てられているのかを知らずに働いている人もいると思うんです。私もアルバイトをしていたときは全然知りませんでした。

今は、以前勤めていたお店のオーナーに連れて行ってもらったことをきっかけに、毎年生産者さんの農園に行っていて。生産者さんたちは、手入れに収穫にと、毎日とにかく忙しいですし、繊細で手のかかる作業ばかりだと思うのですが、実際に会いに行ったら、お花を愛情たっぷりに育てていることを肌で感じました。

そういう生産者さんの姿や、花が大切に育まれているところを見ているからこそ、店や市場で買い手がつかずに枯れていく花を見るのは悲しいですね。「枯れてしまうのが心苦しいから飾らない」という人もいるかもしれませんが、花にとっては、誰にも見られずに枯れていくよりも、きれいだなと思ってくれた人のところで一瞬でも飾ってもらえたほうが幸せなはず。枯れることを怖れず、ぜひトライしてみてほしいなと思います。

やわらかくなりすぎない、美術館のような空間

店内の花は、水を替えるたびに並べ方を変えています。質感とか色を見ながら、お花が美しく見える配置を考える。同系色でまとめて陳列しているお店も多いですが、そうすると一つひとつの花の個性が埋もれてしまう気がするので、あえてまったく違う色の花を隣どうしにすることもあります。

花瓶もいろんなタイプがあって、組み合わせを楽しむのもいいですよね。duftで扱っている花瓶は国内外で買い付けしています。以前ドイツに住んでいたこともあって、最初はドイツのアンティークが多かったのですが、そのうちいろんなものが交ざってきて。こうして眺めてみると、統一感がありすぎないのもいいなって思います。

バウハウスとか美術館のような整った空間が好きなので、お店の内装もそれに似た、ちょっと無機質なテイストにしています。duftをオープンした頃は、フランス風のやわらかい雰囲気のお店が多かったのですが、あんまり女性らしくなりすぎないようにしたくて。ドイツ語で「香り」を表すduftという店名も、そういう視点で選んだ言葉です。

一方で、それとはまったく逆の……たとえば全然理解できない現代アートみたいな、カオスな世界観も好きなんです。すっとした内装デザインと、ランダムに見える花や花瓶の置き方には、その両面が表れているのかもしれません。

たくさんの花からお気に入りを見つける楽しさ

花屋で働き始めた頃とくらべると、今は花を飾る人が増えてきました。コロナ禍になってそれがさらに加速し、お客さまもすごく増えて。うちの店は狭くてすぐに密になってしまうので、自粛期間中は思い切って閉店時間を早めていたんですが、自宅用の発送プランもすさまじい数のオーダーがきて……ありがたい反面、目の回るような忙しさでした(笑)。

花を飾る人が増えたのは、Instagramの存在も大きいと思います。最近では、Instagramを見ていると花の“流行”を感じるようになりましたね。たぶん、お花屋さんやインフルエンサーの方が投稿した写真がきっかけになって、「この花がかわいい」「わたしも飾ってみたい」というふうに特定の品種の人気が広がっていくのではないでしょうか。もちろん、それをきっかけに花を飾る人が増えるのはいいことなのですが、ぜひほかにも目を向けて、好きな花に出会ってほしいなという気持ちもあって。いろんな品種を仕入れるようにしているのは、そういう理由もあります。

飾り慣れてくると、初心者だった人も「次はこんなふうにしたい」ということが具体的に見えてくると思います。好きなお花を、好きな飾り方で自由に楽しんでいただけたら。そのためにも、まずは最初の1本を気軽に選んでみてほしいですね。


▶若井さんおすすめの「暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊」
『ドロヘドロ』著:林田 球(小学館)
「生活のほとんどを仕事が占めるなかで唯一“無”になれるのが、漫画を読んだりアニメを観たりしている時間です。
『ドロヘドロ』は、アニメ版を観たことをきっかけに、原作の漫画も読むようになった作品。カオスな世界観で、戦闘シーンと笑いのシーンが同じページにあったりするのに、それが成立する絶妙なバランスなんです。なんでこんなの思いつくんだろう?って、ひたすら尊敬しながら読んでいますね。
お店を続けていくうえでずっと向き合って模索していきたいのが、“duftらしさ”ってなんだろうということ。そのために、『ドロヘドロ』のように自分の想像の範囲を超えたものに触れて、刺激をもらいたいなと思います」


<プロフィール>
若井ちえみ(「duft」オーナー)
1986年生まれ、北海道出身。札幌市内の花屋で働いたのち、独立を目指して上京。いくつかの店舗で経験を積み、2016年5月、松陰神社前に花屋「duft(ドゥフト)」をオープン。
http://duft.jp/


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LUMINE CLASS ROOM LIVE「花のある暮らしのすすめ」
店舗のディスプレイやウエディングのフラワーアレンジメントなど、花にまつわるさまざまな仕事を手掛けている若井さんに、暮らしの中にお花があることの魅力などについてお話をしていただきます。
また、ライブ配信中に若井さんへの質問コメントも受け付けているので、是非ご参加ください。

配信日時:2020年12月16日(水)20:00~21:00
配信方法:上記日時にYouTube上でライブ配信

*アーカイブ動画を配信中:前編後編

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