LUMINE MAGAZINE

SCROLL

LIFESTYLE

 

きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.23(選者:小谷実由さん)

2025.10.10

愛読家として知られ、自らもエッセイ集を刊行しているモデルの小谷実由さんが、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を紹介します。
今回のテーマは「Multisensory Interface -多感覚的に楽しむ冬のスタイル」です。たとえば、ソフトで心地いい素材感とエキセントリックなフォルムの組み合わせ。そんな服のスタイリングのように、多面的な魅力を感じさせ、感覚をやわらかく刺激してくれるような2冊の本を選んでくれました。

『迷子手帳』著:穂村弘(講談社)

言葉遣いや語り口調が柔らかな心地いい話を見聞きしてる中で、突然ハッとする言葉が流れ込んでくる瞬間がとても魅力的で好きだ。こういう現象を「ギャップ萌え」と言うのかもしれないが、それで済ませたくはない。何かと何かの間に起こった違和感というだけではなく、いたずらな落とし穴に引っかかり、仕掛けてきた人のことを好きになってしまうような。些細なきっかけで日常がガラリと変化してしまう衝撃に似た気持ち。

歌人 穂村弘さんによるいつまでも迷子であり続ける人のための手帳。という本。日常の中での違和感や小さな失敗、過去の恥ずかしい記憶や不思議に思ったことが集められたエッセイ集だ。転校先で新しい自分になるべく「いつもインコを肩にのせている神秘的な少年」になろうと思いつく少年時代。子供の頃には無謀な夢を抱くことは誰にでもあるけれど、この新しい自分の解像度はあまりにも高く、なんだか大人が思いつく不思議な子供という感じの大人びたキーワードばかり。これをそんなこと…と笑って流すか、そこで立ち止まり思考を深めるか。一つの事柄にはたくさんの可能性があることを教えてくれる話が詰まった一冊。物の見方が一つではないことで、迷いが生じることは決して悪いことではありません。

『今日も一日きみを見てた』著:角田光代(KADOKAWA)

猫は、人間には到底全てを理解しきれない生き物。ふわふわの毛と柄に身を包み、グリーンやイエロー、ブラウンやブルーなどさまざまな宝石のように吸い込まれそうな美しい瞳でこちらをじっと見つめてくる。そんな麗しい姿が目の前に現れたら触れたくなるのが性。でも、手を伸ばすとするりとどこかへ飛んでいったりパンチが飛んできたり。時折気分であちらから触れてくることもある。予測不能でミステリアスな存在。

角田光代さんの家に生後3ヶ月の猫・トトがやってきた。これは猫と暮らすことで初めて感じる喜びや発見のエッセイ集。角田さんはトトに日々翻弄される、猫の寝呼吸を耳にすればもう何もいらない、これだけでいい、と満ち足りてしまう。あとがきには「このふわふわの生きものは、いったい何ものなのだろう? 猫、という動物ではなくて、猫のかたちをした、何かもっとべつのものなのではないか」とある。それほどに猫という生き物に触れるたびに自分だけでは気づけなかった角度の事柄をたくさん受け取り、豊かになっていく。猫と暮らす人々はきっとそれを再確認する。猫以外の存在できっと同じ気持ちを抱く人にもこの想いは伝わるはず。

小谷実由
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、さまざまな作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。猫と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。著書にエッセイ集『隙間時間』『集めずにはいられない』(ループ舎)。J-WAVE original podcast「おみゆの好き蒐集倶楽部」のナビゲーターを務める。
https://www.instagram.com/omiyuno/


※該当書籍の取り扱いは各店舗へお問い合わせください


===================
■あわせて読みたい
>> きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.22(選者:小谷実由さん)

■こちらもおすすめ
>> クローゼットの奥に開く冬の入口。五感を刺激するシーズンディスプレイ

 

TOP