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アートがもたらす、心の動きと新たな視点/LUMINE ART FAIR アワード審査員インタビュー

2025.10.17

アートのある毎日をお届けする「LUMINE meets ART PROJECT」。その一環として、2025年11月1日(土)~3日(月・祝)にニュウマン新宿5Fのルミネゼロでアートフェア「LUMINE ART FAIR –My 1_st Collection Vol.4-」を開催します。

ルミネがキュレーションした新進気鋭のアーティストや海外アーティストを含む、約30名が参加。手に取りやすいサイズや価格の作品を取り揃え、アートコンシェルジュが作品の飾り方や保管についてアドバイスしてくれるなど、“アートと共に暮らすはじめの一歩”を応援します。

また今回、出展アーティストを対象としたアワード、LUMINE meets ART AWARDも同時開催されます。選考は4名のエキスパートによる審査と、来場者による投票で実施。受賞者は、2026年にルミネやニュウマンのウィンドウなどで展示を行う予定です。
 
今回インタビューしたのは、LUMINE meets ART AWARDの審査員のひとりである加藤育子さんです。東京・青山にある複合文化施設「スパイラル」でキュレーターとして活躍し、ふだんから若いアーティストたちとも深く関わっている加藤さん。LUMINE ART FAIRの魅力や審査のポイント、アートを暮らしに取り入れることなどについて伺いました。

スパイラルとルミネの共通項。暮らしのなかにアートを

―まずは、加藤さんのお仕事について教えてください。

東京・青山にある複合文化施設「スパイラル」を中心に、キュレーターとして主に現代美術をベースとした展覧会の企画を担当しています。

スパイラルは「生活とアートの融合」をテーマに1985年にオープンしました。“アートは美術館で観るもの”という考え方が一般的だった当時、オープンスペースで気軽に展示を観られたり、カフェでコーヒーを飲みながらアートに触れられる空間は画期的だったそうです。
また、現代美術、とりわけ若手アーティストは発表の場が少なかったので、スパイラルで展示したことによってチャンスが広がったアーティストも多いと聞いています。

街ゆく人に気軽にアート作品を体験していただくこと、そして若いアーティストの発表の機会をつくること。この2点はスパイラルとLUMINE ART FAIRの共通する部分であり、すごく親和性がありますね。

「スパイラル」の名前を象徴するかのような、螺旋のスロープと自然光が美しいアートスペース「Spiral Garden」(Photo:Junpei Kato)

足を運びやすく、疑問にも答えるアートフェア

―加藤さんから見てLUMINE ART FAIRが一般的なアートフェアと比べて異なる点はどのようなところでしょう?

アートフェアといえば、スイスの「アート・バーゼル」や、国内では「アートフェア東京」などが有名ですね。そういったアートフェアが対象としているのは、美術の知識が豊富なコレクターや画廊の方々。言うなれば“アートのプロ”が多く集まるので、一般の方が会場を訪れても、どう振る舞ったらいいのかと戸惑われる方もいらっしゃるようです。

一方でLUMINE ART FAIRは、「アートに興味はあるけれど知識はない」「アートフェアってどんなところ?」というような方にこそ来ていただきたいイベントですよね。会場が駅に直結していて、作品も部屋に飾りやすいサイズのものがメインなので、ファッションのお買い物をする感覚で気軽に立ち寄ることができるのではないでしょうか。そんなふうに、間口が広いことに魅力を感じています。


―LUMINE ART FAIRでは、会場内にアートコンシェルジュがいて、作品の選び方や飾り方、保管方法をアドバイスしてくれます。

作品や作家を好きになって、購入してみたい、家に飾りたいと思っても、やはり初めての人は不安に思いますよね。そういう方にとって、その場で相談して答えてくれる人がいるのはすごく心強いはずです。たとえば、絵を壁に掛けるときにはどんなフックを使えばいいのかといったことも迷うところですよね。壁に掛けるだけでなく、棚に立てかける、本棚の上に置くなど、飾り方や楽しみ方も実はいろいろあります。

また、アート作品としては比較的手ごろな値段であっても、決して安い買い物ではないと思うので、保存の方法や安全な取り扱い方についてもアドバイスしてもらえると安心ですよね。少し高価なコートを買うときにスタイリングやお手入れ方法を店員さんに相談するのと同じように、気軽に相談して作品を選んでいただければと思います。

―加藤さんは、今回「LUMINE meets ART AWARD」で審査員を務められます。審査員としてアート作品を見るうえで、大切にしている視点はなんですか?

LUMINE meets ART AWARDもそうですが、若いアーティストを対象とするアワードで審査員を務めることが多いので、まずは作家本人にやりたいことの軸があって、その人にしかできないことや必然性がきちんと作品に表れているかどうかを重要視します。
その次は、技術。いまは生成AIを使えば“アートっぽいもの”ができてしまう時代です。だからこそ、その人にしかできない手技も大切です。そして発想力。もちろんオリジナリティという点も大切ですが、この作家がこの機会にしかできないことが表現されているかということもしっかりと見るようにしています。

また、特にLUMINE meets ART AWARDでは、今後も継続的に活動をしていく作家かどうかという点も重要ですね。アートフェアで購入した作品はずっとその方のご自宅で飾られたり、保管されたりするわけですから、作家のことを長く応援できるような関係性をつくることが理想的だと思っています。

アート作品で暮らしに新たな視点を

―加藤さんご自身もアート作品を購入されるそうですが、日常に取り入れるときのポイントはありますか?
 
私は毎年、1年間の予算を決めて作品を買うようにしています。自宅に飾るので、A3よりも小さいサイズのものがほとんどですね。若手作家の小サイズの作品は数万円で買えることが多いので、たとえば10万円あれば2点から3点、購入できるイメージです。

おすすめの楽しみ方は、頻繁に掛け替えること。我が家には子どもがいるので、季節に合わせておひな様や五月人形、クリスマスツリーを飾り棚に飾ります。それらを片づけたタイミングで、空いたスペースにアート作品を飾るんです。作品にとっても紫外線の影響があるので出しっぱなしはよくありませんし、ほこりを払うきっかけにもなります。

子どもが大きくなってからは立体作品も飾れるようになりましたが、小さいお子さんがいるご家族なら、壊れにくいアクリル素材の額に入っている平面なら危険が少ないので取り入れやすいと思います。

子どもが幼いころは飾る作品を変えるたびに、「これにはなにが描かれているのかな?」とか「この絵が好き」などと会話のきっかけにもなっていました。子どもが学校の授業で描いた作品も一緒に飾って楽しんでいましたよ。

スパイラルでは、10月29日(水)から11月3日(月・祝)まで「女子美術大学創立125周年記念展 この世界に生きること」を開催。同大学出身の現代アーティスト3組による展覧会のほか、卒業生の作品を展示

―暮らしにアートを取り入れることで生まれる変化はありますか?

まず、描かれた作品や色をまとった作品を置くことによってその空間全体に変化が出ます。私が作品をおすすめするときには「家の中に新しい窓をつくるように、景色を変えるきっかけになりますよ」とお伝えすることもあります。

作品には作家の視点が含まれているので、日々新しい発想に触れることができるとも思っています。たとえば、見慣れた景色も写真家や画家のフィルターを通すことによって違う捉え方が見えてきます。こんなふうに光が見える一瞬が世界には存在するのかと、あらためて気がつくというようなことです。こういった心の動きを日常的に感じることは、アートがもたらす特別な価値のひとつではないでしょうか。

LUMINE ART FAIRはどなたでも無料で入場できるアートフェアですから、まずは会場に来て、作品を見るだけでも新しい視点につながるかもしれません。「自分の部屋の、あの壁にこの絵を飾ってみたらどうだろう」とか、「本棚を整理したらこの作品を飾れるかもしれないな」などと、具体的に空間をイメージしながら作品を見ると一層楽しめると思います。ひらめきやグッと心を掴まれるような出会いにもぜひ期待していただきたいですね。


PROFILE
加藤育子/スパイラル キュレーター
東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了後、スパイラル/株式会社ワコールアートセンター入社。ギャラリー担当ならびに同チーフ・キュレーター等を経て、現在アート事業部 部長・キュレーター。現代美術のキュレーションを軸に、スパイラルが発信するアートの責任者として、各種プログラムやコンテンツの企画管理・ブランディングを行う。
https://www.spiral.co.jp/


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LUMINE ART FAIR –My 1_st Collection Vol.4-
〔日時〕2025年11月1日(土)・2日(日)11:00~19:00/11月3日(月・祝)11:00~17:00
〔場所〕ルミネゼロ(東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-55 ニュウマン新宿 5F)
〔入場料〕無料
https://www.lumine.ne.jp/lmap/fair/2025lmaf/



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