LUMINE MAGAZINE

SCROLL

LIFESTYLE

 

きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.27(選者:小谷実由さん)

2026.08.20

愛読家として知られ、自らもエッセイ集を刊行しているモデルの小谷実由さんが、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を紹介する本企画。今回のテーマは「Decorative Attitude -美意識の再定義」です。日常のこと、美しいこと、好きなこと。それらを捉え直すことで、いつもの風景が少しだけ変わるかもしれません。小谷さんが選んだのは、そんなふうに気づかせてくれそうな2冊です。

『水上バス浅草行き』著:岡本真帆(ナナロク社)

毎日の景色。変わらない同じような毎日。そんな風に思ってしまうときっと本当に同じように見えてしまうかもしれないと考えたら突然怖くなる。目の前には探せば探すほどいろんな物もいろんな色もたくさんあるのに。きっと同じと思った途端に全てがモノクロになる。いつの間にか世界がそんな風に退屈になってしまわないように、いま自分の中にあるそのものたちを、日々のなんでもない景色を抱きしめたいほどに愛おしく可笑しくすることができたら。

歌人・岡本真帆さんの第一歌集。「ていねいなくらしにすがりつくように、私は鍋に昆布を入れる」「入口で待ってる犬の飼い主が出てくるところまで見てしまう」「歩いても歩いても前をゆく人がおんなじ角で曲がる夜道だ」など作中に出てくる景色はきっと誰しもが体験したことがあるような瞬間。ぼーっとしていれば何も思わずに過ぎ去るかもしれないことが、彼女の作品の中では奥行きを持つ。知っているはずなのに、初めてその感情を抱いた時のようにドキリと高鳴る、胸がぎゅっとなる心地良さを与えてくれる一冊。この歌集を読む前と読んだ後ではきっと自分の世界も違って見える。あの一首が、自分の目の前の景色と繋がる。そんな風に思うことができたら、日々はずっと色褪せないままでいられる気がする。

『現実入門 ほんとにみんなこんなことを?』著:穂村弘(光文社)

やったことがないこと、タイミングを逃すとおそらく一生やらないかもしれないことは誰にでもある。やったことがないという中にはタイミングを逃す以外にも勇気が出なかったり、そもそもやろうと思っていなかったりなどいろんな理由があるけれど、本気ではない「いつかはやってみたいなぁ」なんて気持ちも存在していたりする。バンジージャンプをやってみたいなぁ、とテレビで誰かがヒューンと高い所から潔く飛んでいると考える。そうしているだけでも少し、心がもう楽しい。

穂村弘さんがやったことがないことを次々と体験していくエッセイ。結婚も離婚もしたことがなく、独り暮らしをしたこともない。「極端に臆病で怠惰で好奇心がない性格」という当時四十二歳の穂村さんが、献血やモデルルーム見学、占い、はとバスツアー、マス席での相撲観戦などおそらく本人の意思では辿り付かなかった現実体験に向き合う一冊。全てはただ体験あるのみ。そして次回からはそれらに気軽な気持ちで取り組める。なんて生やさしいものではない。ただ、一度体験したことがあるという事実はどんな面白い影響を人に及ぼすのだろう。まずはそれを私たちが“読書”という体験から、擬似的に楽しんでみたいと思う。本を読むということは、日常の中に非日常や自分だけでは見つけられなかった気づきを与えてくれる未知に溢れた体験かもしれない。

小谷実由
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、さまざまな作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。猫と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。著書にエッセイ集『隙間時間』『集めずにはいられない』(ループ舎)。J-WAVE original podcast「おみゆの好き蒐集倶楽部」のナビゲーターを務める。
https://www.instagram.com/omiyuno/


※該当書籍の取り扱いは各店舗へお問い合わせください


===================
■あわせて読みたい
>> きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.26(選者:小谷実由さん)

■こちらもおすすめ
>> 心と身体、両方から健康に。「海UMIウェルネスデイズ」が描く幸せの循環
 

TOP