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変わるふたり、変わらない甘さ

Valentine & White Day's story

Valentine & White Day's story


久しぶりにその扉を押し開けた瞬間、懐かしいコーヒーの香りが全身を包み込んだ。 
深く息を吸い込むと、その暖かさが身体の隅々にまで染み渡り、硬直した肩がゆっくりと解けていく気がした。 
 
 
数年前、甘いもの好きな私たちは新しい街での生活を祝うように、休日には必ずスイーツ巡りをしていた。 
あの頃の亮介は「次は何にする?」と目を輝かせながらメニューを選んでいたっけ。 
今はどうだろう。 
彼の目が光るのは布団の中でスマホをいじっているときくらいだ。 
 
 
「今日帰り遅い?ルミネのカフェで会えない?」 
問いかけへの返事を待つ数分間、心臓が早鐘のように鳴っていた。 
 
「今電車の中。10分後くらいにつくよ」 
短い返信を見て、安堵とともに緊張が押し寄せてくる。 
夫と会うのに緊張してどうするの、と思わず自分を笑ってしまう。 
 
 
先週末の喧嘩。 
ほんのささいなことから、あっという間に火がついた。 
 
澄み切った快晴の空に心がはずんだ私は、 
「せっかくの天気だし、どこか行こうよ!」 
と布団にくるまったままの亮介に声をかけた。 
 
けれど、彼はベッドの上からかたくなに降りようとせず、 
「今日はゆっくり寝る日なの」 
と、お得意の休日宣言を繰り返した。 
 
普段なら気にしないけれど、その日は何かがきっかけで、溜まっていた気持ちが爆発してしまった。 
 
 
「毎週そんなこと言って、ずっとダラダラしてるじゃん!」 
「じゃあ友だちと出かけてくれば」 
 
そんなやりとりが続き、噛み合わない言葉の応酬の果てに、お互いの不満が噴出。 
最終的に大喧嘩に発展し、私たちは口を閉ざしたままその日を終えた。 
 
沈黙はその後も続き、家の中に居心地の悪い空気を運び込んでいた。 
 
 
家族だけど、他人。 
一緒に暮らす他人同士の妥協点はどこにあるのだろうか。 
 
 
「私ばっかり妥協してる気がする」と心の中でつぶやく。仕事帰りに勇気を出して喫茶店に誘ってみたけれど、やっぱりやめておけばよかったのかもしれない。 
 
 
メニューをぼんやりと眺めながらそんなことを考えていると、店の扉が開き、マフラーに半分顔をうずめた亮介が入ってきた。 
こちらを見て軽くうなずくと、静かに向かいの椅子に腰を下ろした。 
 
「何にする?やっぱりモンブランかな」 
亮介が何気なく尋ねる。 
 
よく、この店でケーキを2つ頼んで半分こしていたっけ。 
問いかけに「んー」と曖昧に応えると、自分の感情を素直に表現できないもどかしさで顔が熱くなった。 
 
モンブランとモワルーショコラをそれぞれ頼み、注文が終わると互いに目を合わせることもなく、またぎこちない空気が漂った。 
 
バレンタインの今日、店内には楽しげな声が響き、ピンクや赤の紙袋を抱えた人々の熱気が充満している。 
そのざわめきに耳を傾けながら、ふと昔の記憶が蘇る。 
 
「近所に新しいケーキ屋さんがオープンするんだって!」 
肩を寄せ合い、ワクワクしながら行列に並んだ日々が懐かしく、少し切ない。 
あの頃の私たちは無邪気に笑いあって、何気ない日常を共有していたのに……。 
 
 
私はよく、過ぎた日々を振り返っては昔のことを惜しむ癖がある。 
新婚の頃は幸せだった、付き合いたての誕生日はサプライズをしてくれた――そんな思い出を心の中で反芻しながら、つい彼を責めてしまう。 
よくないと分かっていながらも、どうしてもその記憶たちを手放せないのだ。 
 
 
 
久しぶりに再会したモンブランは、薄茶色の絹糸が幾重にも重なり、コーヒーの湯気の隣できらめいていた。 
 
口に運んだ瞬間、和栗の甘みと渋みが口の中に広がり、時間差で分厚いメレンゲが舌の上を転がる。 
おいしい!!と声を上げたくなる気持ちを抑え、代わりに感嘆の息が喉の奥から漏れた。 
 
昔は大げさなくらいにリアクションをとって、一口ごとにはしゃいでいたのに。 
変わったのは私も同じかもしれない。 
 
 
視界の端で、彼がモワルーショコラにゆっくりフォークをさしこむのが見えた。 
一拍の間、チョコの表面がフォークを押し返すように抗い、外側の香ばしく焼き上がった層が静かに裂ける。その奥から、しっとりとした半熟のチョコレートが艷やかに顔を覗かせた。 
じゅわぁ、と音が聞こえてくるよう。 
 
亮介は一口目を味わいながら、「おいしい」とぽつりと呟く。 
その声に釣られたように目を上げると、私たちの視線が久しぶりに交わった。 
 
「ごめんね、先週……」 
小さな声で会話を切り出すと、言葉を続ける前に真っ直ぐな声が返ってきた。 
「俺もごめんね」 
 
私たちは自然とお皿を交換し、もう一つのケーキを交互に味わった。 
 
「久しぶりに食べるけど、やっぱりこれも美味しいわ」 
小さなチョコの塊がついた口の端を上げて、亮介が笑う。 
 
 
 
帰り道、バッグの中に忍ばせたバレンタイン限定のチョコボックスを思い出した。 
 
いつ渡そうか。 
晩ごはんの後、コーヒーをじっくり丁寧に淹れてから一緒に食べられたらいいな。 
甘いものは一日に何回だって心を満たしてくれる。 
 
彼は少し変わった。 
きっと私も変わった。 
 
変わらぬ時間と同じくらい、私たちの変わりゆくものも抱きしめよう。 
もしその大切さを忘れそうになったら、もう一度、何度でもまたチョコの甘さに頼ればいい。



Story
ジェラシーくるみ
jealousy kurumi
東大卒の夜遊びコラムニストでお昼はしがない会社員。年中無休でモヤモヤしてるアラサー女子たちへ向けた文章が特徴。 書籍やnote、脚本など様々な場面で活躍中。


▼他のストーリーはこちらから

STORY 1 「for me」

STORY 2「指先の宇宙」

 





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